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35.もう一度、近くに


昨日、蘭と園子があたしの家に遊びに来てくれた。

それが新一とのことであたしの心配をして、様子を見に来てくれたんだってことが分からない程、鈍くはない。

けど、あたしはあえて新一の話を一切しなかったし、新一の話題になりそうになればはぐらかした。

今のあたしは新一の名前すら聞きたくなかった。
聞いたら、また自分の中の何かが壊れるような不安があったから。

でも、学校が始まれば同じクラスなんだから、新一に会わないって訳にはいかない。


「なまえ、あのさ」

『おはよ。工藤くん』


教室に入ったあたしのところへと一番に来たのは新一だった。
普段はこんなに早く来ないクセに…。

あたしは一方的に挨拶だけすると、新一をムシして自分の席へと向かった。

教室がざわついてるのはあたしが新一のことを避けたからだろう。
もしくは新一のことを工藤くんって呼んだからか。

なんだ、みんな新一のキモチを知ってたのか。
それなら文化祭以降、みんなの様子がおかしかったのも頷ける。

気付いてなかったのはあたしだけなんだと思うと、またズキンと胸の奥が鈍く痛んだ。


『明日香、おはよー』

「おはよ、なまえちゃん」


明日香に不安そうな顔をさせるのはホントに申し訳ないけど、この話題にだけは触れないで欲しいと態度で示した。
ごめん、あたし自身何て話したらいいか分かんないんだ。


「おい、工藤。ちょっとこっち来い」

「は?オイ!引っ張んなって!」


なまえが俺を見ないどころか、俺のことを名前で呼ぶことさえしなかった。

避けられること自体は覚悟してた。
けど、まさかあんな風にあからさまに近づくなって壁を作られるとは思ってなかったから、ショックを受ける前に放心してしまった。

認めたくなかった。
認めちまったら、俺ん中で何かが崩れていく気がした。

クラスメートに人気のないところまで連れていかれるなり、俺は質問責めを食らった。


「おい、工藤!一体何があったんだよ?」

「お前、先週まではみょうじさんといい感じだっただろ!?何で今日になっていきなりみょうじさんがお前のこと避けんだよ!?」

「…俺がなまえを責めて泣かせちまったんだよ」


吐き捨てるように呟けば、襟首を掴まれてそのまま壁に叩き付けられた。
背中も痛ぇけど、それ以上に心が痛ぇ。
ギシギシ音を立てて軋んでる気がする。

結局俺はなまえに避けられる覚悟なんか出来てなかったんだ。


「どういうことだよ!?お前、みょうじさんのこと好きだったんじゃねぇのかよ!?」

「今でもどうしようもねぇくれーあいつのことが好きだよ!悪ぃかよ!?」

「だったら何泣かせてんだよ!?金曜日の部活ん時はあんなに仲良さそうだったじゃねぇか!!テメー何してんだよ!?」


そんなの俺が聞きてぇよ。
数日前まで俺のことちゃんと見てくれてたんだ。

園子の話じゃ、俺のこと多少なりとも意識してくれてたはずなんだ。
それが、今じゃ俺の存在を否定するみてぇに避けられて…

あの日に戻れんだったら、ぜってーあんなこと言わねぇよ!

でも一回言っちまった言葉は、もう取り返しがつかねぇじゃねぇか!!


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