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34.亀裂


あれから中々眠れなくて、ずっと考えていたんだけど、やっぱり今までの新一はあんなこと言ったりしなかった、と思う。


「その…可愛い過ぎて直視出来なくて、だな…」


うん、絶対今までの新一ならあんなこと言わない。
っていうか聞いたことない。

ああいうことは彼女でも作って、その彼女に言って欲しい。
恥ずかしくて、こっちまで顔真っ赤になっちゃったじゃんか。


「俺のこと応援してくれてんだと思うと嬉しくてテンション上がって大変だったんだぜ?」


あんなのヘタしたら、新一があたしのこと好きなんじゃないかとか誤解しちゃうような台詞だぞ?
そういう台詞は軽々しく言っちゃダメだって。

ん?新一があたしのことを好き…?
ナイナイ。うん、ナイ。ナイ、よね?

でも文化祭のキス…園子が脚本変えたからってすぐ出来るもんなんだろうか?
あの新一が?


考えれば考える程、思考がこんがらがってしまって、よく分かんなくなってきた。
このままじゃ、新一があたしのことを好きだと誤認しそうだから寝て忘れよう。うん、そうしよう。

すぐには眠れそうにないとかって思ってたけど、瞳を閉じると自然と眠気がやって来て、あたしは夢の世界に旅立った。


翌朝、有希子さんと朝食の支度をする頃には、昨日のことはあんまり考えない様になっていた。
…ちょっとは気になってるんだけど。


『あ、有希子さん。今回はどこか出掛けたりとかって考えてるんですか?』

「え?そうねぇ。特に考えてないけど。どうかしたの?」

『それなら、あたし、今日ちょっと出かけて来ますね』

「あら?何か予定があるの?」

『ちょっと…』


歌でも歌って、気分転換して来ようかと。
モヤモヤしててキモチ悪いんです。


「ふぁあー。はよー」

『新一、おはよー』

「あら、新ちゃん。休みの日だって言うのに早かったわね」

「んー、なんかあんま眠れなかったからな」


眠たそうに目を擦ってる新一は、ベッドに連れてけば直ぐにでも寝そうな感じがするんだけど。
眠れなかったって何かあったのかな?


「なまえ、今日どっか出かけねぇ?」

『え?』


ご飯を食べ終わった後、部屋に戻って出掛ける準備をしていたら、新一が入って来た。


「あれ?どっか行くのか?」

『あ、うん。園子と約束があってさ』

「そっか。なら仕方ねぇな」


とっさに嘘ついちゃったけど、どうしよう…。
園子に口裏合わせてもらえるように頼んでみるかな?


「は?何でそんなことで嘘ついたのよ?」

『いや、何かついそう言っちゃって…』

「もしかして、新一くんと何かあった?」

『えっ?』

「何かあったのね!?」


何で今日に限って園子の勘が冴えてるんだ。


「じゃあさ、こうしない?なまえが歌った後にどっかで会おうよ」

『嘘をホントにするってこと?』

「どうせずっと歌ってるわけでもないんだからいいでしょ?」

『そりゃあ、そうだけど…』

「じゃあ決まりね!歌い終わったらまた電話頂戴」


じゃあね、って園子は電話を切ってしまった。

でも、ちょうどいいかな?
園子に話してみたらあたしの勘違いだって一蹴してくれるかもしれないし。

そんなことを考えながらあたしは工藤家を後にした。



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