33.違和感と戸惑い
「何これ!?可愛いーっ!!」
金曜日のお昼休み、3人に個別に小さく焼いたタルトを渡したら、明日香がキラッキラした瞳で大事そうに受け取って叫んでくれた。
喜んでもらえて良かった。
『林檎のタルトだよ。デザートにでもしてね』
「毎回思うけど、あんたってホントに器用よね」
『そう?』
「うんうん!何かお菓子屋さんで売ってそう!」
『蘭、それは言い過ぎだって。あんまり期待してると、食べたらガッカリするかもよ?』
あたしの自信のあるレパートリーの中の一つだから、不味いってことはない、とは思う。
でも見かけ倒しだと思われたらちょっとショックなので、やんわり予防線を引いておいた。
「あ、そうだ。あたし、なまえちゃんに聞きたいことがあったんだよね」
『なぁに?』
「この前、なまえちゃん、男の子と一緒にマンション入ってったでしょ?ほら、文化祭でマジックで花束出してくれた男の子!」
明日香に見られてたのかとドキッとしたけど、明日香がその発言をした途端に教室から音が消えた事の方にビックリした。え?何?
何が起こったの?
「ちょっとなまえ!どういうことよ!?」
『あ、あれは、』
「あれは?何よ?」
『このお菓子を作る材料買いに行ったら、たまたま黒羽くんと会って』
「それで?」
『あたしの手作りお菓子が食べたいってダダこねられて、家までついて来ちゃっただけだってば!』
「ホントに?」
『ホントに!簡単なお菓子作ってお帰りいただきました!』
なーんだとか言う声があちこちから聞こえたけど、何だってみんなこのことに興味津々なんだ?
やっとざわつきが戻った教室にさっきまで時間が止まってたような錯覚を起こした。
「でもさー、やっぱりその男の子、なまえに気があるんじゃないの?」
『は?ないない。だって番号交換したのだってその時だし、ホントにそんな仲がいいわけじゃないもん』
「でも番号交換はしたんだ?」
『なんか成り行きで?教えないと帰りそうになかったんだもん』
「でも、私もあの子はなまえに気があるような気がするけどなぁ」
『蘭まで何言ってるのよ』
「だって、普通仲良くもない子の為に花束なんか持って来ないよ!」
「やっぱそうだよねー。あたしも、あの男の子はなまえちゃんのことが好きなんだと思うけどなぁ」
『明日香まで?そんなことナイって!もうこの話題はやめよ?ナシナシ!』
言うだけ言ってあたしはお弁当に箸を入れた。
止めないとお昼休み中この話題になりそうだったんだもん。
「あ、これ美味しい!」
『ホントに?良かった』
「なまえちゃんは食べないの?これすっごく美味しいよ?」
『あ、これは余っちゃった分で別にあたし用に持って来たわけじゃないんだ。あたしは作る専門。良かったら明日香持って帰る?』
「それなら俺がもーらいっと」
明日香に渡そうとしたところで、急に上から手が伸びて来てお菓子を包んだ袋を奪われた。誰だよ?
って振り返ると新一で、既にお菓子を食べている。
…あんた、この後部活でも家でもこれ食べるのに、今から食べるのか?飽きるよ?
「やっぱこれうめーな!」
『そんなにこれ気にいってたの?』
「いや、なまえが作ってくる菓子はどれもうめーんだけど、母さんのアルバム見てたら何か急にこれが食いたくなっちまってよ」
出た。有希子さんのお菓子アルバム。
ってかホントに実在してたのか。
寧ろ、何でそれを新一が見てたのかの方が気になるんだけど、お菓子を片手に上機嫌で友だちのところへと戻っていく新一に聞くことが出来なかった。
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