01.終焉と開幕
もうどうしたらいいのか解らなかった。
20と数年、他人から短いと言われようが、あたしはよく生きたと思う。
だって、そうでしょう?
自殺が未遂に終わったのが19の春。
目が覚めたら病院のベッドの上で、呼吸器を始め、いろんな機械に囲まれていた。
今更どうでもいいけれど、呼吸器を喉深くに押し込まれたせいで、その時以来あたしは歌えなくなった。
あれから数年。あたしの希望は何一つ揺らぐことがなかった。
“あたしという時を終わらせること”
初めて好きなように生きていいと言われて選んだのが、あたしという人生の終焉。
それを聞かれた時には、もう生きることに疲れ切っていた。
文句は言わせない。
あたしが初めて自分で選んだことだもの。
嘘。ホントは文句を言われても、幻滅されても構わない。
その先に記憶の中のあたしという存在さえも消してくれたらいいと思う。
あたしは目を瞑ってそんなことを考えていた。
閉じていた瞳を開けば、闇色をした海が広がっている。
ネットで終焉の場所を調べている時に見つけたこの崖。
昼間はずっとここに座って海を眺めていた。
そして、波打つ綺麗な蒼色は、沈む太陽と接吻を交わし、紅から朱色へといろんな赤色を広げ、今はいなくなった太陽の変わりに空には満月が存在を誇っていた。
普段見ている月とどこか違って見えるのは、あたしの心境の違いだろうか?
深く息を吸い込んで、潮の香りを自分の中に満たすと、あたしは自然と僅かに微笑みが浮かんだ顔を空へと向けた。
天には月の周りで踊るように、都会では拝めない程の星たちが視界いっぱいに煌めいている。
『綺麗…』
思わず目を細めると、潮風が撫でるようにあたしの髪を靡かせた。
あたしは恵まれている。
こんなに自然が溢れた場所で
あたしの大好きな場所で終焉を演じられるのだから。
“さよなら”
何に向けて言った別れかは分からないけれど、あたしはその身体を海に捧げた。
あたしは終焉を演じきれただろうか…?
願わくば、次に目覚めることがありませんように……
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