練習終わりの帰り道。
園子のお説教が終わってない工藤くんを見捨てて一人で帰っていると、校門で誰かが待ってるようだった。
今は文化祭の準備でバタバタしてるし、誰かと一緒に帰るのも難しいのを知っているので、大変だなぁ、なんて思いつつその場を通り過ぎようとしたら突然声を掛けられた。
「あーっ!やっと見つけた!!」
『え?』
周りに他の人がいない所を見ると、どうやらあたしに声を掛けてきたらしい。
誰だっけ?
「あれから毎日河原に行ってんのに、オメーが全然来ねーから学校まで来ちまったぜ」
『あーっ!』
思い出した!あの日のワンコだ!
私服姿だから全然気付かなかった。
ってか、何であたしがこの学校だって分かったんだ?
あ、そっか。あの時、学校帰りだったから制服着てたのか。
まさか、学校までやって来るとは。
ワンコ恐るべし。
「今文化祭の準備やってっから、土曜日でも登校してるかもしんねーって聞いてよ」
『それでずっと待ってたの?いつ出てくるかも分かんないのに?』
寧ろ登校するかどうかも分からない相手を?
あっきれた。このワンコ相当暇人らしい。
「とりあえず俺腹減ったからどっか行こうぜ?」
『え?』
「オメーがいつ出てくるか分かんなかったから、昼食いそびれちまったんだって!」
それ、あたしのせいじゃないよね?
「ほら、行くぞ!」
『ちょっと待ってったら!』
ワンコはあたしの腕を取ると走り出してしまった。
つまり、あたしも走らないといけないわけで。
こっちは練習で疲れてるんだから、更に体力使わせないでよ!
『それで?何であたしを待ってたの?』
「ん?この前自己紹介しようとしたら、オメーが急いで帰っちまったから?」
連れて来られたのは近所のアイスクリーム屋さんだった。
このワンコ、チョコアイスばかりでトリプルというちょっと胸焼けを起こしそうな組み合わせを頼んだから、あたしは飲み物だけにした。
チョコアイスって何か引っかかってるんだけど…何だっけ?
『それだけ?』
「おう。そんだけ。ここのアイスうんめーっ!」
一口食べては何とも幸せそうな顔をするワンコ。
食べてもらうアイスもこんな相手で本望だろう。
『あたし、みょうじなまえ。なまえでいいよ』
「俺、黒羽快斗ってんだ。よろしくな、なまえ!」
そうだ!黒羽快斗!
すっかり忘れてたけど、ここで出て来るんかい!
そういえば確かに工藤くんと声が似てる。気もする。
でも、顔そんなに似てるか?ぴょんぴょん跳ねてる髪型のせいかな?
「んだよ。このマジック気に入らなかったか?」
『え?』
黒羽くんの手を見ると、一輪のバラが。
あ、例のマジックやってたのか。
ごめん、キミの名前にビックリし過ぎて全然見てなかったよ。
「オメー、今度舞台やんだって?」
『何で知ってるの?』
「いや、さっきまで知んなかったけど、待ってる間オメーの名前だけはよく聞いてたからさ」
そんなに噂されてんのか。
なんか憂鬱になってきた。
「文化祭見に行くから、そん時はデケー花束出してやるよ!」
アイスを頬張りながら、無邪気に笑うワンコこと黒羽快斗の出現で文化祭がなんだか不安になってきた。
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