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基礎化粧で肌の手入れを済ませて、髪を乾かしていると来客があった。
誰だろ?先生かな?


『はーい』

「あ、俺だけど。入っていいか?」

『どうぞ』


来客は意外にも工藤くんだった。
しかも、手に本を持っているわけでもない。
…何しに来たんだ?


『もうちょっとで髪乾かし終わるから、待ってもらってていい?』

「おう。悪ぃな。こんな時間に」

『ううん。でも珍しいね。工藤くんが本を持たずにあたしの部屋に来るなんて』


工藤くん=ミステリー小説の押し売りって認識してるあたしがヒドイのかもしれないけれど、工藤邸で一緒にいる限り他の話題が振られた試しがないんだから仕方ないことだと思う。


『それで、どうかしたの?』


ベッドを背中に絨毯に直に座ったままじっとあたしを見てるから、さすがに不思議に思ってブラッシングしながら尋ねてみた。


「どうして今日のこと教えてくれなかったんだよ」

『え?』

「みょうじが今日あんな格好してくることが分かってりゃ、さすがに誰か分かんねぇってことにはならなかったのに」


そんなことを拗ねた様に言われても困るんだけど…。


『誰かわからなかったんだ?』


工藤くんがしまったっていう風に目を見開いて顔を赤くした後、あたしからプイッと顔を反らしてしまった。
ホント、工藤くんってこういうところが可愛いよね。


『でも、あたしも先生とのデートが決まったのは昨日だし、あんなドレス着るだなんて今日知ったんだよ?』

「え?」

『それに先生とのお食事が終わって工藤邸に車が着いた時には、あたしも「しまったー!」って頭抱えたもの』

「何でだよ?」

『今日の先生、いつもよりテンション高くてね?お食事の頃にはだいぶ落ち着いてたんだけど、先生でそんななのに有希子さんのリアクションなんて分かり切ってるじゃない?』

「あー…」


素直に話を聞いていた工藤くんが、やっと納得したような同情するような微妙な声を上げた。
うん、あたしも他人事ならそうしてると思う。だから、


『綺麗にヘアメイクしてもらって着替えて先生と会った時には、こんなにテンションの高い先生と有希子さんを同時に相手しなきゃいけないなんて工藤くんも大変だなぁって思ってたのに、まさか自分の身に降りかかるなんて思ってもみなかったわ』


って言い返してみた。
案の定、工藤くんはクツクツと笑いながら、こんなことを言った。


「ひでぇな。そん時はどっちかみょうじが担当してくれよ」

『クスクス。工藤くん、やっと笑った』

「え?」

『今日ずーっと笑ってなかったのに気づかなかったの?』


きょとんと大きな瞳を丸くしてる工藤くんに笑いが止まらない。
もう慣れたつもりだったけど、本当にまだ13歳なんだなぁってこんな時は改めて実感する。




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