(番外編)新一side
飯を食った後、部屋から出てこないみょうじに、もう寝ちまったんだろうって母さんと話してたのに、風呂上がりに父さんがみょうじの部屋から出てくんのが見えたから、まだ起きてんなら小説を持って行ってやろうと部屋をノックした。
「みょうじ、まだ起きてんのか?」
部屋の外から声をかけても返事がねぇから、扉を開けてみたら、ベッドの上に座り込んで、涙を流しながらどこか焦点のあってないようなぼーっとしてるみょうじがいた。
「オメー、どうしたんだよ!?」
俺の声にはっとしたように、慌てて服の裾で涙を拭うと、何事もなかったかのように
『大丈夫だよ。それよりどうしたの?』
っていつものしっかりとした口調で返された。
いや、どうみても大丈夫じゃねぇだろ!?
それまで部屋の入り口から動けなかった俺だけど、みょうじんとこまで行こうと踏み出そうとした時、絶妙のタイミングで父さんが帰ってきた。
本当に俺の邪魔すんのだけは天下一品だよなっ!
って文句も言いたくなるくれーに、あっさりと俺を追い出すとちゃっかり内側から鍵を掛ける音がした。
んだよっ!
父さんはみょうじを慰めるのはよくて俺はダメだっつーのかよっ!
とその時は怒り任せに部屋に戻ったんだけど、翌朝もみょうじの姿は見当たらなかった。
「なぁ、みょうじは?」
「なまえちゃんなら疲れちゃったのか、まだ寝てるのよ。起こさないであげてね?」
「おー…」
返事はしたけど、疲れてるって昨日の涙が原因か?
それとも何か別のことか?
父さんも母さんも何も言うつもりがねぇのは分かってたから、俺は一人で考えることしか出来なかった。
「新一、おはよー」
「……」
「新一?」
「……」
「ちょっと新一!聞いてんの!?」
「イッテーなっ!いきなり胴着で殴ってくんなよっ!」
みょうじのことを考えながら学校に向かってたら、いきなり蘭が殴って来やがった。
信じらんねぇ。
普通いきなり頭狙うか!?
「いきなりじゃないわよ!新一が無視するのが悪いんじゃないっ!」
「バーロー。無視したんじゃなくってちょっと考え事してたから気づかなかったんだよっ!」
「考え事って何よ?」
そういや、蘭はみょうじと仲が良かったよな?
こいつなら何か知ってっかも知れねぇじゃねーか!
「なぁ、オメー、みょうじが泣いてんの見たことあっか?」
「はぁ?もしかして新一、なまえ泣かしたんじゃないでしょうね!?」
「何でそうなんだよっ!!」
「だってなまえが泣いてるとこなんて見たことないもの。誰かが泣いてるのを慰めてるとかならよくあるけど」
「やっぱそうだよなぁ」
はぁ、と大きなため息をつくと、蘭がものすごく疑し気な瞳で俺を見てた。
っつーか睨んでた。
「んだよ?」
「ホンットーに新一が泣かせたとかじゃないのね?」
「だーかーらっ!違うっつってんだろーがっ!何で信じねぇんだよ!?」
「じゃあ、何で急にそんな話したのよ?」
「うっ…それは、だな」
「それは?」
「……」
言うまで解放してくれそうにない蘭に、仕方なく昨日の話をしてみた。
ら、予想外なことに協力してくれるとか言い出した!
やっぱ持つべきものは頼りになる幼なじみだなっ!
「サンキュな」
「別に新一の為じゃないからね?私もなまえが泣いてるって聞いたらほっとけなかったってだけで」
何て言いつつも、話を聞いたら俺にも教えてくれるって約束をしてくれた蘭にやっと頭がすっきりした。
だってあんな顔されちまったら気になって仕方ねぇじゃねーか。
ボロボロ泣きながら、入ってきた俺をすがるように見つめてきたんだから。
あいつの涙の理由が知りたいんだ。
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