▽真っ白な私


あの人はいつだってカッコよくて、素敵で。
そして、残酷だ。それでもあの人が大好きな私は、明らかに頭のおかしい人間なのだろう。
いや、もしかしたら人間なのかすら怪しいかもしれない。なにせ私の記憶は、あの人の部屋にいたところから始まっているのだ。
以前の記憶なんて真っ白で、最低限の常識しか持ち合わせていない状態。自分の名前さえ危うくて、あとから私は誰?ここは何処?とべたに問うてしまったほど。
そんな姿で、気が付いたら私はあの人の前にいた。
「ようこそ、***」
真っ白の私。
記憶喪失かすらも判断できない私の目の前で、あの人は薄く笑った。それを見て、ドクリと心臓が鳴る音が聞こえる。その綺麗で冷酷な笑みだけで、私の心を奪うには、十分だったんだ。

(真っ白な私に、あなたの黒い記憶を)


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mae ato




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