bookshelf jj | ナノ


神様とやらが仮にいるとして


!高専五条視点
!夏油彼女を五条も好きになってしまう話で、終わりがめちゃくちゃに暗いです。全くもってハピエンではありません。
!2022.10.27の本誌GIGAによると五条は小中通ってないことが濃厚っぽいですが、それ以前に書いた話のため五条が中学に通ってる世界線です。
!以上踏まえ、なんでも許せる方だけご覧下さい。




 
 持って生まれたこの目と術式以外にも、大概のことは出来ちゃう器用さまで俺には備わってたもんだから、欲しいと思う前に大抵のものは手に入ってた。だからさ、今まで生きてきた人生で何かをめちゃくちゃ欲しいと思ったことなんて、多分一度も無かったんだよね。

 俺がその存在を信じる信じないは別にして、神様とやらが仮にいるとしたら、どうやら俺はその神様って奴に随分愛された存在らしい。もし前世ってのがあるんなら、今の俺じゃ想像もつかないようなすっげー善行を前世の俺がしたのかね。そうだとしたら、前世の俺に一応感謝だけはしとこうかな。
 自分で言うのもなんだけど、極めつけに見た目まで完璧に生まれてきちゃった俺が持ってないのは、マジで性格ぐらい。これは誰が見ても明らかなんじゃない?
 まぁ生まれた家は、しきたりとかその他色んな面倒ごとが有り得ないくらい多い家柄ではある。だけど、数百年ぶりに生まれた六眼持ちの無下限呪術の使い手である俺に、そのめんどさはあんまり関係なかった。家のヤツらはみんな、基本的に俺の言いなりだし。

 そんな毎日は、時々すげぇ退屈だった。最初からレベルマックスでやるRPGってさ、やっぱつまんないじゃん。まぁそのつまんなさは、高専に入ってから――、傑と会ってからはあんま感じなくなったんだけどさ。
 高専に入るまで通った学校で、ゲームのこととか適当に話したり、学校帰りに遊んだりする奴はいないこともなかった。でもまぁ、俺が本心から友達だと思える奴は多分いなかった。向こうはどう思ってたか知らねぇけど。
 呪術師がマイノリティ極めてるのはわかってた。そんな中でも俺が特別だっていうことも知ってた。だからそういうのを求めたことなんてなかったし、これから先も求めることは無いと思ってた。そもそもパンピーに期待なんてしたところで、たかが知れてるじゃん。
 だから呪術師の同年代がいるだろう高専入るときさえ、あんまり期待してなかった。けど蓋を開けてみたらびっくり。初対面で前髪変じゃね?って思った奴が、まさか俺が背中預けてもいいかなって思えるくらいの実力者だなんて思いもしなかった。それでいてまさかソイツが親友と思えるくらいの存在になるなんてさ、本当に……、思わなかったよね。


***

2006年1月


「なーー、最近ずっと付き合い悪くね?
 なんかしてんの?」
「そうかな? そうでも無いと思うけど」
「そうだって! 最近休みの日は大体出かけてんじゃん」
「悟とは休みの日以外は一緒にいるじゃないか」
「なにその言い方。まるで俺が寂しんぼみたいな言い方してんなよ」
「はいはい。全く、素直じゃないんだから。
 悟には……、というか他の誰にも言ってなかったんだけど、少し前に彼女ができたんだ」
「へぇ! なに、その感じだと結構気に入ってる感じ?」
「気に入ってるっていうか……、初めて女の子のことを本気で好きになったかもしれない」
「……マジ?」
「私もびっくりなんだけどね」


 高専の授業が終わった後、寮へ戻る道すがら少し前から気になってたことを傑に聞けば、傑からは予想外の答えが返ってきた。予想外ってのは、傑に女が出来たことじゃない。その女に傑がマジだってことがだ。傑からの思いもよらない報告に、俺は相当間抜けな顔をしていたんだろう。傑が「何もそんな顔をしなくてもいいだろう」と言いながら、俺を見て笑った。
 硝子に言わせるとクズらしい俺達は、健全な高校生らしいっちゃらしく、青い春に通りがちな道を通っていた。傑と街にナンパに行けばその成功確率はほぼ百発百中で、それなりに欲を満たせた。だけどどんな女に対しても、イマイチ本気になれなかった。身も蓋もない言い方をすれば、ある程度のボーダーラインを超えてれば、女は皆同じようなもんだった。俺も傑も、女と付き合うなんてことになったとしても、あまり長くは続かなかったから、傑は俺と同じタイプだとその時まで俺は思っていた。とはいえ、傑にマジな女が出来た事実それ自体に驚きはしても、別に傑のことをうらやましいとは思わなかった。へー、あの傑がねぇ。あえて感想らしいものをあげるとしたら、マジでこれぐらい。……あとはまぁ、さっきは傑の手前否定したけど、ちょっと寂しいのもあったかな。


「てゆーか、写メないの? 見せてよ」
「いいよ。はい」
「……ふぅん」
「可愛いだろう?」


 渡された傑の携帯の画面の中に映る女は、それなりに可愛い女ではあった。あくまで、それなりにだ。画面から顔を上げて隣を歩く傑を見ると、傑は今まで見たことが無いような締まりのない顔で同意を求めるように俺を見ている。少なくともこの時俺には、傑がこんな顔をする程に魅力がある女には見えなかった。


「ま、フツーじゃね?」
「そう言うと思ったよ」
「は? なにそれ」
「悟の言う普通は、どちらかというと褒め言葉だからね」
「意味わかんな。そのまんま感想言っただけなんだけど。
 ていうか、なにきっかけ? 任務?」
「そう、任務で助けたのがきっかけ。
 ほら。年明け早々、代わってくれって悟に頼まれた任務があっただろ」
「あー……、そういえばそんなんあったな。
 ていうかさ、もしかしなくても任務代わってあげた俺ってキューピッドじゃね?
 その俺にも秘密にするとか」
「すまない。隠すつもりは無かったんだが、聞かれなかったからね。
 問われない限りは、少しの間彼女のことを私だけの秘密にするのも悪くないと思って」
「なにそのキショい発想。ヲエー」


 らしくない発言をする傑に思わず口を突いて出た悪態にも傑は静かに笑うだけで、絶対返ってくると思った反論が無くて、なんかすげえ拍子抜けだった。
 この時少しだけ、その女に俺は興味を持った。親友が本気になった女は一体どんな女なんだろうって、やっぱ少しは気になるものじゃん。機会があれば話してみたいなんて思ったし、傑を交えて遊んでみてもいいかもとすら思った。だけどすぐ、やめといた方が賢明なんだろうとも思った。傑は若干15歳にして女の扱いに妙に長けてて、体感的に俺よりも全然モテる。だからまぁかなり少ない可能性ではあるけど、万が一その女が俺に惚れるなんてことがあったら……、困る。これは自惚れとかじゃなくて、実際に今までそういうケースが何回かあったりして面倒なことになったりしたんだよね。相手がクラスメイトってだけの間柄の奴ならまだしも、傑じゃ面倒ってだけじゃ済まされない。
 なんてことを考えたりしたけど、傑もあんまりその女のことを自分から話さなかったし、俺もあえて聞いたりしなかった。だから、傑の携帯に着信があったりとかでその女の存在を感じた時以外に、その女を積極的に思い出すことも無かった。



2006年7月

 思いがけず傑の彼女と俺が会うことになったのは、傑から彼女のことを聞いてから数ヶ月後のことだった。


「あぁ、いたいた。
 悟、すまないがちょっと頼まれてくれないか」
「なに? 傑が頼みなんて珍しーね」
「これから名前と会う約束をしていたんだが、急な任務を言い渡されてね。
 私が行けなくなってしまったことを、私の代わりに伝えてくれないか」
「はぁ? なんで。
 んなことしなくたって、携帯で連絡とれんだろ」
「どうやら携帯を持たないで家を出たみたいでね。連絡がとれないんだ」
「嘘でしょ。今時携帯忘れるなんて奴いんの」
「まぁ少しおっとりしてる子なんだよ。悟も会えばわかるさ」
「ちょっと待て。なんで俺が行く前提になってんだよ」
「頼むよ。硝子に頼んでもいいんだが、変な誤解や余計な心配をされたら嫌なんだ。それに悟の話は名前にもよくしているし」
「女がダメって言うなら、補助監督にでも行ってもらえばよくね?」
「プライベートで小間使いみたいな真似、補助監督にさせられるわけないだろう」
「なんか気になる表現が2、3あったんだけど。
 俺は小間使いにしてもいいのね」
「頼むよ、悟。
 君にしかこんなこと頼めない」
「……わかったよ。行きゃいーんだろ。
 ったく、優しい俺に感謝しろよ」
「すまないね」
「貸しイチな」


 ただの偶然だけど、俺が傑に任務の代打を頼んだことがきっかけで傑は彼女と出会った。でも今度は傑から頼まれて彼女に会うことになるなんて、変な巡り合わせだと思った。
 前に会わない方がいいだろうと思ったことを忘れていた訳じゃない。でも他でもない傑本人から頼まれたんだし、傑の様子を見るに多分俺の心配は杞憂に終わるんだろうと思った。それに、その存在を傑から感じる度に、親友の彼女のことはやっぱどこかで気にはなっていた。だから躊躇うことなく俺は傑の頼みを引き受けた。

 傑に散々遅れるなと言われたのに、俺が待ち合わせ場所の駅に到着した時、既に約束の時間を5分過ぎていた。予想していた通り、傑の彼女――名前は既に到着していた。5分過ぎは遅刻の程度でいったら俺としては軽い方。でも傑は俺と違って、デートの時に遅刻することが無いんだろう。約束の時間を5分経過しても現れない傑を心配しているのか、名前は辺りを見回している。だけどそれらしき人物が周囲にいないことがわかると、持っていた鞄の中身を確認し出して、今度はさっきのちょっと不安そうな顔からめちゃめちゃ焦ってる顔になった。話聞いた時は信じられなかったけど、傑の予想はどうやら当たってたっぽいね。


「あー、ごめん。えっと、名前だよね?
 俺、傑の同級生の――」
「…………もしかして、傑の親友の、さと……五条悟くん?」
「ん。なんだ、俺のこと知ってんの?」
「うわぁ。初めまして。
 傑からよくお話は聞いてます」
「俺も名前のことは傑から聞いてるよ」


 以前から傑から俺のことを聞いていたらしい名前は、名乗る前に俺が傑の言う“五条悟”だと気付いて、初対面の俺にもちょっとびっくりするくらい柔らかい笑顔を向けた。
 前にどこをそんなに好きなのか聞いたら、傑は困ったようにわからないと言っていた。傑曰く、気付いたら引き返せないほど好きになってしまっていた……らしい。傑が言うことは、俺は絶対わかんねーと思ってた。んなことありえんのかよって。でも実際名前に会ってみたら、傑が惚れるのもなんとなく理解できた。コイツを取り巻く空気感ていうの? それがすげー澄んでて綺麗。例えていうならそうだな、なんかマイナスイオン出てそうな……、上手く言えねぇけどそんな感じ。

「でも、どうしてここに?」
「携帯、忘れたでしょ。
 傑が急な任務で今日来れなくなってさ。名前に連絡とろうとしたけど連絡つかないから、それを俺が代わりに伝えに来た感じ」
「それは……!
 ごめんね。私が携帯忘れたせいで、さ、五条くんにも手間かけさせて」
「いいよ別に。傑から頼まれたことだし。
 傑がごめんってさ。埋め合わせは絶対するって」
「そうなんだ……、わざわざ伝えてくれてありがとう」
「――名前はこの後どうすんの?」
「え? んーっと……、特に用事は無いけど」
「良かったら、傑のこととか色々聞かせてよ。
 傑、名前とのことあんま俺に話してくれねぇんだもん」


 名前は突然の俺の提案に目をぱちぱちさせて驚いてた。けど俺も内心ちょっとびっくりしてた。傑が今日ここに来ないことがわかった途端に、名前は主人に置いてけぼりにされた犬みたいにしょんぼりしてた。そんな名前が気になって、こんなこと自分が言い出すなんてさ。


「……傑の言ってた通りだ」
「? 何が?」
「優しいんだね。
 だって、デートドタキャンされた私を気遣ってくれたんだよね?」
「なんでそうなんの。別に暇だからってだけだし」
「でも、ありがとう。さ、五条くん」
「……いいよ、悟で。
 傑が悟って言ってんでしょ? さっきから癖で悟って言いかけてんじゃん。
 俺も名前って呼んでるし。同い年なんだから変に気使わないでよ」
「ふふ。ありがとう、悟くん」


 そう言ってさっきみたいに柔らかく名前は笑った。その後に名前と近くの適当なケーキ屋に入って話してみると益々、傑が名前に惚れた理由がわかった。俺が話す傑に関する暴露に面白い程くるくる表情を変える名前は、傑がずっと眺めていたいと思ってもなんも不思議じゃなかった。


「今日はありがとう。
 普段の傑の様子がわかって楽しかった」
「俺も親友のいつもと違う面を知れて楽しかったわ。
 これからも傑のこと、よろしく頼むよ」
「そ、そんな。頼まれるようなことは私は何も……!
 じゃあね、悟くん。気をつけて」
「……あのさぁ、連絡先交換しとかねぇ?
 傑の寮でのオフショットとか送るからさ」


 別れ際にした俺の提案に、名前はきょとんとしていた。やば、なんかおかしかったか? 名前は彼氏がいて、しかもその彼氏は俺の親友。それでも連絡先聞くとか警戒されてもまぁおかしくないのに、さっきみたいに口が勝手に動いてた。傑っていう共通の話題があったからかもしれないけど、なんかすごい楽しかったからかな。


「あー、やっぱ」
「……いいの?!
 え、すごい嬉しい……!!」
「楽しみにしてて。
 あと、無いとは思うけどさ、傑となんかあったら相談乗るよ」
「ありがとう」


 まずったと思って訂正しようとしたら、傑のオフショットっていうのが効いたのか、名前は目を輝かせて今日一番の笑顔を作った。

 それから名前とはちょくちょく連絡をとっていた。って言っても連絡は殆ど俺からで、たまに名前から連絡が来ても、傑がモテてそうで心配だとか、傑の好きそうなものを教えて欲しいだとか、とにかく内容は全部、傑に関することだった。名前と連絡をとっていることはてっきり傑にも知れてるかと思ったのに、傑は名前から俺らのことを全然聞いてないみたいだった。でも不仲とかそういうことじゃないのは、傑を見てたらわかる。きっと傑に知れたら、もうオフショットを流してもらえなくなるって名前は思ったんだろうね。

 名前とは、めんどい家の事情で傑に急遽代わってもらった任務で出会ったって、傑は言ってた。それがどうって訳じゃない。俺が任務で名前に会ったとして、傑みたいに、俺らが惹かれ合ったかどうかなんてわからない。
 だけどもし、もし――俺が予定通り任務に行ってたら、アイツと繋がりができたのは、もしかしたら傑じゃなくて俺の方だったのかも。もしもの話はもともと好きじゃなかった。だって過去を悔やんだって、今更どうにもならないじゃん。でもそんな考えてもしょうもないことを、名前と会ってから、一体何度考えたかわかんないくらい俺は考えてた。


***


 結構序盤にそうなんだと気付いてた。多分、名前が俺を見て名前を呼んだ時からそうだった。
 でも見ないふりしてた。認めてしまえば、どうすればいいのかわかんなくなるから。
 それでいて、別にどうこうするつもりなんて微塵もなかった。俺にとっては傑も名前も――、初めて出来た大切な繋がりだった。二人が良けりゃそれでいいともどっかで思ってたんだ。想うだけなら許されるだろうなんて言えば聞こえはいい。でもまぁ後から思えば、最初から結果がわかりきってる勝負に挑むのが出来なかっただけだったのかもしれないな。
 全部わかっていながら、期待する気持ちを完全に消すことは出来なかった。でなきゃもしもの話を考えたりしないし、傑を好きな名前を見て、一人で勝手に傷付いてしんどくなったりしない。万が一何か間違いがあって二人が別れることになったら、それなら名前に近付いても問題ないかな、なんてことさえ懲りずに考えたりなんかして、マジでどうしようもなかった。だけど俺が名前に抱いてしまった気持ちは、傑には絶対バレないようにしてた。実際のところ傑は気付いてたかどうかは今じゃ確かめようもないけど、少なくとも俺はそのつもりだった。傑は勿論、名前にも知られないように何重にも鍵をかけてしまっといた気持ちは、きっといつか捨てられる日が来ると思ってた。時間は掛かるかもしれないけど。
 まさか、二人がこんな形で終わるなんて予想さえしていなかった。名前だって、こんなことになるなんて絶対に思ってなかった。

 傑は親だけじゃなくて、名前も殺した。家族は殺して名前は殺せないだなんて、道理が立たないんだっていう理由で。
 俺は恵まれてる。それは事実。でも神様がもしいるんなら、ひょっとしたらソイツは結構平等なのかもしれない。
 親友の女を好きになる。これはまぁありきたりな話かもしれない。でもその親友がその女を殺す確率って、一体どれだけの確率? なんならその親友でさえ、これから俺が殺さなきゃいけないんだからさ。案外世界のバランスってとれてるのかもね。
 だとしてもこんなん、全然納得いかないけど。

back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -