bookshelf twst | ナノ


公然の秘密1


※ネームレス監督生。
※無自覚片想いのフロが自分の気持ちに気付くまでの話。フロ視点です。



 午前中の魔法薬学では、テスト白紙で出したのイシダイせんせぇに怒られるし、午後の飛行術では箒から落ちちゃった。だからテンション上がんなーい。今日は部活動やんなきゃいけない日らしいけど……、バスケとかする気分じゃねぇし、そんなの知らね。決めた! 今日は部活サボろ。

「フロイド先輩ー!
 もー、どこ行っちゃったんですか」

 多分ウミヘビくんあたりに言われて、オレのこと探しに来たカニちゃんをうまーく躱した後、中庭の木の上で昼寝することにした。でもいざ木に登ったら、昼寝する気分じゃなくなっちゃった。だからなんか面白いことねぇかな〜って思ってたら、木の下をちょこちょこ歩いてる小エビちゃんを発見。

 オンボロ寮の小エビちゃんは、傍にいると面白そうなことばっか起きる。アズールがオーバーブロットした後に皆でアトランティカ記念博物館に行った時、小エビちゃんだけはアズールの昔の姿をまん丸で可愛いとか言ってたからか、アズールは分かりにくいけど気許してるみたい。だってアズール、小エビちゃんに会うと、ラウンジのバイトの勧誘めっちゃしてるから。だけどいつも色々理由つけて断られてんの。ウケる。
 初めてちゃんと関わる陸のメスは、ちょっと不思議な子。
 でも、そんな小エビちゃんに絡む気にもなれなかった。小エビちゃんは、オレとジェイドのことは相変わらず怖いみたい。そのせいか、オレらが話しかけても小エビちゃんはいつも同じ反応しかしねぇし。初めて会った時となーんも変わんない。ビクっとして後ろに下がるだけ。最初はそれが面白かったけど、ずっと同じ反応だからさすがに最近飽きてきちゃった。
 小エビちゃんはアズールのバイトの勧誘断る癖に、アズールには結構懐いてる。それなのに、なんでオレらだけ怖いんだろ。アズールとオレらって、別にそんな変わんねぇと思うんだけど。

 小エビちゃんのことはスルーして、他に面白そうなことねぇかなって、小エビちゃんの後ろの方を何となく見てみたら、小エビちゃん見ながら、ニヤニヤ笑ってるサバナクローの奴らがいた。距離がちょっとあるからか、小エビちゃんはサバナクローの奴らに気付いてないみたい。しかもソイツ等は、小エビちゃんにマジカルペン向けよーとしてる。これってもしかして、オレ虐めの現場に遭遇してる?
 別に、小エビちゃんのこと助けてあげるつもりなんて全然なかった。オレからしたら、雑魚が群れてるのがたまたま目に付いただけ。雑魚の思い通りになんのってなんかムカつかね? だから暇つぶしに邪魔してやろーかなぁって思っただけ。ただそんだけのすげぇ軽い気持ちだった。

 三人の内の一人が、マジカルペンを小エビちゃんに向かって振る時に合わせて、ユニーク魔法を使った。

「バインド・ザ・ハート」

 オレのユニーク魔法で魔法が逸れたことに、サバナクローの奴等は気付いてない。何が起こったのかわかんねぇみたいですげー間抜けな顔してて、それはちょっと面白かったかも。今度は別の奴がマジカルペン振ろうとするから、それにも合わせてユニーク魔法使った。なんかこのままだと、小エビちゃんに魔法が当たるまでやりそー。ずーっと魔法使い続けるのもめんどいし、だるいなぁ。そう思って、木の上から降りて、サバナクローの奴等をちょっと睨む。オレ見たサバナクローの奴等の顔色はすぐ変わって、オレと小エビちゃんがいるのとは逆方向に走ってっちゃった。向かって来ねぇとか張り合いのねー奴等、やっぱつまんね。

「…フロイド先輩! こんにちは。こんなとこで、どうしたんですか」

 木の上から急に目の前に出てきたオレに、小エビちゃんはびっくりしたみたい。小エビちゃんは、オレ見るとビクッとして後ろに下がった。あは、やっぱいつもと同じ反応だぁ。

「どうしたって、小エビちゃんに魔法かけよーとしてる雑魚がいたからさぁ。一応ケガしねぇように、助けてあげたんだけど。小エビちゃん、オレになんか言うことねぇの?」
「えっ……。あ、最近よくここで転ぶのって、私に魔法かけてる人がいたからなんですね! 全然気付きませんでした。
 フロイド先輩のおかげで、今日は転ばずに済みました。ありがとうございます……!」
「……ありえなくね? 鈍感すぎんじゃねぇの。あっちへ走ってる奴等いるじゃん、アイツ等に見覚えねぇ訳?」
「うーん、わからないですね……。私のこと、よく思ってない人はこの学園に沢山いますから」

 小エビちゃんには、他の奴等と全然違うとこが1個ある。この学園に通ってる奴なら大抵誰でも、ちょっとは持ってるよーなものがねぇの。小エビちゃんには、悪意が全然ない。だからなのか、自分に向けられてる悪意にも超鈍感なんだよねぇ。『この学園ではいいカモにされるだけ』ってアズールは言ってたけど、ほんと、アズールの言う通りだと思う。

「小エビちゃんさぁ。そんなんじゃ、その内、転ばされる以上に痛い目見ることになるよ?」
「……心配してくれてるんですか?」
「はぁ? なに言ってんの。小エビちゃん面白いね」
「意外と優しいんですね、フロイド先輩って。ありがとうございます」

 オレは優しくなんてねぇし。変なこと言うなぁ、小エビちゃん。
 小エビちゃんは、2回目の『ありがとう』を言った後、ふわって笑った。1回目はまぁわかんだけど、別に今お礼言う必要なくね? ほんと、意味わかんない小エビちゃん。……そーいえば、ビクビクしてばっかの小エビちゃんが、こんな風にオレに笑いかけたりすんのって、初めてかもしんないなぁ。

「小エビちゃん、そんな顔出来たんだぁ」
「そんな顔……?」
「もっとそーゆう顔してたらいーのに」
「……??」

 小エビちゃんが笑った時、なんでか知らねぇけど急に心臓がギューッて絞められてるみたいになった。かと思ったら、今度は胸のあたりがなんかほわほわしてくすぐったいんだけど……、なにこれ? こんな風になったの初めてだし、なんか変なんだけど。

「今、心臓がギューッて締められたんだけど。小エビちゃん、オレになんかした?」
「えっ? な、なんもしてないですよ」
「そ? それならいーけど」

 一応、小エビちゃんがなんかしたのかと思って聞いてみたけど、小エビちゃんはビクビクしながら何もしてないって言った。嘘はついてなさそうだなぁ。
 オレに返事した小エビちゃんの顔からは、さっきまで浮かべてた笑顔は消えちゃってた。なぁんだ、もう元に戻ってるし。残念。
 ギューッてなったのはほんと一瞬だった。だから妙な胸の違和感のことなんてすぐ忘れたし、その後もしばらく思い出さなかった。

「てか、わざと転ばされてるってわかったのに、仕返ししねぇの?」
「し、仕返し……? 多分しない…と思います。
 やり方がわからない私に出来るとも思えないし。
 私が反応しなければ、転ばすのにもいずれ飽きると思いますから」
「ふ〜〜ん。小エビちゃんらしーね」





 大食堂でアズールとジェイドと昼飯食べた後、いつもみたいに喋ってたら、相変わらずビクビクしながら、一人でオレたちに近付いてきた小エビちゃん。カニちゃんとかアザラシちゃんは、少し離れたテーブルで小エビちゃんの様子を心配そうに見守ってる。そんなに心配しなくても、別に取って食ったりしないよ? つーか心配はすんのについては来ねぇんだ、ウケんね。

「おやおや。これは珍しいお客様ですね」
「監督生さんではありませんか。
 ようやく僕の誘いを受け入れ、モストロ・ラウンジで働く気になりました?」
 
 小エビちゃんからオレたちに近付くのは結構珍しー。アズールとジェイドも思ったことはオレと同じみたいで、二人とも楽しそーに小エビちゃんに話しかけてる。けどオレは珍しーと思っただけ。小エビちゃんのことは特に気にしてなかったし、二人みたいに話しかけたりもしなかった。

「きょ、今日はその、フロイド先輩に、お礼がしたくて……」
「え。オレぇ?」

 小エビちゃんが一人でオレたちに近付いた理由が、オレに用があるからなんて思わなかったなぁ。
 ──でも、お礼されるようなことなんてしたっけ?
 オレにとって、小エビちゃんを転ばそうとしてた奴等の魔法をユニーク魔法で逸らしたのはどーでもいーことだった。少なくとも、こん時すぐ思い出せねぇくらいには。

「こ、これ、この前助けて頂いたお礼です……っ。
 もし、お、お口に合わなければ、す、す、捨てて下さい」
「? オレなんかしたっけ……」
「こ、転ばないようにしてくれたじゃないですか」
「あー……、アレかぁ。あんなん気分だから、別にいーのに」
「でも、た、助けて頂いたことには変わりないので」

 別にいーって言ったのに、小エビちゃんは、オレの前のテーブルに、水色のちっちゃい紙袋を置くと、カニちゃんたちのとこにぴゅーって戻ってった。小エビちゃんって、逃げ足だけは早いんだよなぁ。また今度追いかけっこしたいかも。

「フロイド、あなた、いつの間に監督生さんに恩を売っていたんです?」

 向かいに座ってるアズールが悪いこと考えてるときみたいにニヤニヤしながら、こっち見てた。何が面白いのかよくわかんねぇけど、やたら目ギラギラしてるし、超楽しそうじゃん。アズールどうしたの?

「そんなんじゃねぇし。ただの気分でやったことなのに、小エビちゃんってば律儀ー」
「ふふ。これは、フロイドに対価を求められると思っての行動でしょうか?
 なんとも可愛いらしい包みですねぇ」

 ひらひらしたレースのリボンをしゅるしゅる解くと、中に入ってたのはクッキーだった。一個口に入れてみる。ん〜〜〜……、小エビちゃんって、料理下手くそだったんだぁ。確かに、あんまり器用そーじゃないもんねぇ。

「なにこれぇ。粉っぽいし硬ぇし。小エビちゃんってば、こんな簡単なのもまともに作れねぇの。
 オレがテキトーに材料混ぜて作ったクッキーの方が絶対おいしーんだけど」
「おや、要らないなら僕が頂いても?
 今日の古代呪文語の合同授業の前、僕のクラスは飛行術なんです。最後の授業まできちんと受けるには、空腹は大敵ですので」
「……別にいらねぇなんて言ってねぇじゃん!
 これはオレが、小エビちゃんに貰ったの! ジェイドにあげたんじゃねぇから」

 小エビちゃんが作ったクッキーの出来栄えに文句言ってたら、ジェイドがテーブルの上のクッキーを制服のポッケにちゃっかりしまおうとした。それ見たら思わず、ジェイドの手から小エビちゃんが作ったクッキー奪い取ってた。何してんだろ、オレ。意味わかんね。別に小エビちゃんが作ったおいしくないクッキーなんてどーでもいいんだけどさぁ、ジェイドに食べられんのはなんかやだ。
 つーかなにこの空気。なんか言えよ。なんでアズールもジェイドも黙ってんの。
 クッキーとられたジェイドの反応が気になって、ジェイドの顔見たら、ジェイドは笑ってた。オレを見てくる目は変に生温かいし、なにこれ? なんか居心地わる。

「なに? さっきから。なんでアズールとジェイド、二人とも笑ってんの?」
「「別になんでもありませんよ」」
「揃ってるし。絶対なんでもなくねーじゃん、なんだよ」
「いえ別に……。ふふ、これから面白くなりそうですね、アズール」
「ええ、ジェイド。
 フロイド、僕、これまで以上に監督生さんのモストロ・ラウンジのアルバイトの勧誘、頑張りますね」
「なに言ってんの? 二人とも意味わかんないんだけど」


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