bookshelf twst | ナノ


ダンスダンスダンス1


※現代転生パロ イド監。名前変換あり(ナマエちゃんは前世監督生でした)。
※舞台は某多国籍国家、公用語は英語想定。
※ナマエちゃんもリーチ兄弟も大学生です。
※ナマエちゃんには、アリアという金髪碧眼の美人な友達がいます。



 触れる水の冷たさは確かに感じるのに、私の身体が寒さで凍えることは無い。アズール先輩の作った魔法薬の効果は、やっぱり確かだ。
 ここで聞こえるのは静かな波の音と、私と先輩たちが波に揺られるちゃぷちゃぷという水音だけ。星が散らばる夜空では、まん丸の黄金の月が眩しい程に光り輝いている。ゆらゆらと揺れる黒い水面に写る月も綺麗だ。最初に先輩たちに提案された時、夜の海に行くなんて恐ろしいことをする勇気がない私は、勿論その提案を断った。けれど、自分達もいるから大丈夫だと、何度も私を説得しようと試みる先輩たちの熱意に、結局押されてしまった。先輩たちに半ば無理やり連れて来られた夜の海。そこは、とてもロマンチックな雰囲気に包まれていた。

「小エビちゃんと夜の海でデートできるとか最高〜」
「アズールに感謝しなくてはなりませんね。
 人間のナマエさんが夜の海に来れるよう、冷たい海の中でも、体温が低下しない魔法薬を作ってくれたのですから」

 だけど、私が一番綺麗だと思ったのは、神秘的な夜の海ではなく、本来の姿である人魚に戻って、海を自由に泳ぐ先輩たちだった。月の光に照らされている濡れた翡翠色の肌と鱗。この夜空に輝く月のように美しい、フロイド先輩の右目と、ジェイド先輩の左目の金。元の世界にいた頃は、御伽噺の中の架空の生物としてしか存在を知らなかった人魚。この世界にいる人魚は、皆がみんな先輩たちのように美しいのだろうか。

「ジェイド先輩、フロイド先輩……、月が、綺麗ですね」
「えぇ、そうですね。貴女と僕達で、このように美しい月を海から見られるとは……。ふふ、嬉しいです」
「ほんとにきれーだねぇ。きらきらじゃ〜ん」

 どんなに先輩たちの想いを示されようとも、私の本当の想いを、正直に本人達に言ったことは無かった。だって私は、この世界からいずれいなくなる存在だから。
 でも私は、元の世界の文豪が、愛の言葉を今しがた私が言った言葉に訳したと知っていて、わざと言った。伝わらないのならば、言ってしまっても許されるだろうから。
 ジェイド先輩と繋がれた右手と、フロイド先輩と繋がれた左手。出来るなら、この両手をずっと離したくないと私が願っていることを、先輩たちは知らない。
 



 また、いつもの夢を見た気がする。
 金曜日の時刻はお昼時。ガラスの吹き抜けから、太陽の光が燦々と降り注ぐ人気席を学食で運良くゲットできた私は、 友人のアリアとランチしていた。学食人気メニュー3位のタコライスを丁度三口食べた頃、私は、自分が昨晩夢を見ていたことを唐突に思い出した。16歳の誕生日を過ぎた頃から、繰り返し見るようになった不思議な夢。
 夢の中の私がいる世界では、私達が生きる世界と違って、当たり前のように魔法が存在する。夢の中の私は、別世界からその世界に突然、連れてこられた。ツイステッドワンダーランドという別世界に連れてこられた私が、最初に目を覚ましたのは、名門魔法士養成学校。夢の中でも、私は魔法が使えない、今と特に変わりない普通の人間だった。魔力がない人間がその学校に通える筈がない。それなのに、他に行く宛てが無い私は、名門魔法士養成学校に、魔力がない身で特例として通うことになったのだった。
 その学校で私は、色んな人と出会い、色んな経験をしていた。勿論、夢ではその人達と会話もしている。夢を見ると、夢の中で誰かと何かしたという記憶はある。だけど、その人達の顔も、名前も、経験したことも、話した内容も、起きると、霧がかかったように殆ど思い出せない。ハイスクールの頃から幾度となく見ている夢なのに、私がその夢で、唯一はっきり覚えているのは『別世界から来た私が、魔法魔術師学校で生徒として学んでいる』ことだけだった。
 私の夢の中には、特によく出てくる人物が二人いた。そして驚くべきことに──、はっきりとは覚えていないけれど、夢の中の私は、その二人に恋をしているみたいだった。現実の私では、とても考えられない話。

「ねぇ、アリア。どうやったら見ていた夢の内容を思い出せるのかな?」
「またナマエお得意の夢の話? ナマエ、ハイスクールの頃から飽きもせず、その話ばっかりね」
「だって、なんだかすごく楽しくて、懐かしいような、素敵な夢なんだもん」

 私は、この夢を見るのが好きだった。起きたら殆どが霞んでしまうひどく頼りないものなのに、寝る時はいつもあの夢を見れないかと、期待するのをやめられない。そして、私の期待通りに夢を見ることができると、その内容は思い出せないのに、胸はときめきでいっぱいになるのだ。
 だから、夢の内容を覚えていないのは寂しい。出来ることなら、どうにかして思い出したい。ハイスクールの頃から親友で、偶然同じ女子大学に進学したアリアには、何度もこの夢のことを話したし、夢の内容を思い出すいい方法はないかと相談している。そんな私に、アリアはそろそろ付き合いきれないみたいだけど。今だって、派手な美人とよく言われるその顔を顰めて、アリアは私を呆れたように見つめている。

「ナマエのためを思って言うけど……、そんなんだから恋人の一人や二人もできないのよ!」
「……アリア、今それ関係ある?」
「あるわよ、大あり。
 夢の中では、二人の男に同時に愛されるなんて、なかなか無い体験をしてるみたいだけど。現実のナマエはどう?
 私の知る限り、生まれてから20年間、恋人がいないどころか、好きな男が出来たことさえ無いじゃない」
「そりゃぁ、好きになれる人がいれば、私だって恋愛くらい……。でも、そう思える人がいなかったんだから、しょうがないじゃん。
 こういうのって無理にするものでもないし」
「ナマエ、これからずーっと夢の中の住人を想っていくつもり? そんな不毛な恋って無いわよ」
「現実の私まで、その2人に恋してるとまでは言ってないんだけど……?!」
「分かってないみたいだから言うけど、名前も顔も声もろくにわからない、夢の中の2人の男について話す時、ナマエってば、女が恋してる時の顔してるわよ」
「えー……、そんなことないよ」
「だから、同じ男2人でも、ナマエはもっと現実を見た方がいいと思うの。
 そういう訳で、見て! これ♪」

 向かいの席に座っていたアリアが、私にスマートフォンを手渡す。画面には、男性二人のSNSアカウントが表示されていた。

 Jade & Floyd Followers 3m
 Leech Brothers(twins)/Free Model
 Plz follow us!!
[ジェイド &フロイド フォロワー 300万人
 リーチ兄弟(双子)/フリーモデル
 フォローよろしくね]
     
 簡素な説明のアカウントには、何とも美しい男二人の写真が並んでいた。翡翠や海を思わせるシーグリーンの髪色に、金とオリーブの美しいオッドアイ。この髪色とオッドアイがもし天然のものならば、人種のるつぼと言われているこの多国籍国家でもあまり見ない、珍しい色だ。双子だからか、顔立ちは似ているが、雰囲気の異なった美形だった。
 モデルという職業柄からか、アカウントに上げられているのは、私服のスナップや、彼等が載っている雑誌の表紙、起用されたCMの商品の写真が多い。それらの殆どに、彼等は2人セットで写っている。セットってのが売りなのかな。
 フォロワーの数と公式のマークが付されていることから、どこかの有名人だということはわかった。だけど、この2人が一体なんだというんだろう。

「なんか、美形な双子モデルだね」
「あぁ〜、やっぱり知らないのね」
「有名人みたいだけど……、この2人がなに?」

 私が尋ねたことで、イケメン好きのアリアのスイッチを押してしまったようだった。アリアは、待ってましたとばかりに、碧い目をらんらんと輝かせて語り出す。

「すごいのよ! リーチ兄弟は。
 なんてったって、2人が街で買い物してたところを、超有名なハイブランドのデザイナーが偶然見かけたのがきっかけで、ブランドのコレクションモデルに起用されて、モデルのキャリアをスタートさせたんだから。普通そんなことってある?! あー、でもあのスタイルとオーラは、引き寄せるべきものを引き寄せちゃうわよねぇ。フリーなのに今やすごい人気で、国内外の色んなハイブランドのデザイナーがリーチ兄弟を取り合っちゃって、もー大変なの。
 有名なCMにも出てて……。ナマエも一回くらいは見たことあるんじゃない?
 あの世界的スーパーモデル、ヴィルとも親交があるとか……」

 デザイナーが取り合うのもなんだか納得。片方だけでも華があるのに、同じ顔して雰囲気の違う二人が揃うことで生まれる化学反応は、素人の私から見てもすごい。写真に写る彼等が作り上げる独得な世界観。これをデザイナーたちは求めているんだろう。だけど、どんなに綺麗に笑っていても、私は、彼等にはどこか得体のしれない不気味さがあると感じてしまった。もしかしたら、そんな妖しい美しさも、彼等の数ある魅力のうちの一つなのかもしれないけれど。

「うん、そのリーチ兄弟がすごいのはわかったよ。
 でもまさか、アリアの『現実を見た方がいい』ってのは、現実に存在する芸能人に恋してる方がまだマシとか……、そーいうことを言いたいの?
 芸能人に恋することだって、よっぽど夢みがちだと思うけど……」
「それがそうでも無いのよ!」

 学食のテーブルをばんっと叩きながら、アリアは私の指摘を興奮した様子で否定した。

「大学の近くの街に、『in the sea(イン・ザ・シー)』ていう知る人ぞ知るバーがあるんだけど、ある情報筋によると、リーチ兄弟ってそこの常連なんだって〜」
「へぇ……、それが?」
「ナマエ、バカなの?
 そこに行けば、リーチ兄弟と知り合いになれるかもしれないのよ!」
「いやいやいや、そんな。会えるかどうかもわからないじゃん。第一、会えたって、そんな雲の上の人が一般人を相手にするわけ……」
「しちゃうみたいなのよ、これが!
 リーチ兄弟って結構守備範囲広いみたいでね、バーで会った女の子をそのままお持ち帰り、なんてことがザラにあるらしいの〜!
 遊びまくってるらしいのに、ゴシップ誌には1度も撮られたことないってのもすごいよね〜」
「なにそれ。こんな綺麗な双子の夜遊びなんて、パパラッチの恰好のネタになりそうなのに。1度も撮られてないって、なんか逆に怖くない?」

 アリアがさっきから、にまにまとこちらを見る視線が痛い。バーの話が出た時点で、アリアの目論見は薄々わかってはいた。だけど、アリアの言わんとしていることに私は承諾する気が無い。こういう時は先手を打たないと、アリアに無理やり付き合わされる。

「嫌だからね。何が『ナマエはもっと現実を見た方がいい』なの。体良く付き合わそうとしてるだけでしょ。私はパス」
「ちょっと! 私まだ何も言ってないじゃない。話も聞かずに断るのは、親友に対して余りに優しく無いんじゃない?」
「……わかったよ。
 じゃあ言ってみるだけ言ってみて」
「一緒に、『in the sea』行かない?」

 やっぱり。

「ねぇナマエ、お願いっ」
「無理だって。私、バーとかそういうとこ好きじゃないし」
「私、ナマエ以外の友達あんまり居ないじゃん。だからナマエしか頼れる女の子がいないの。ほら、分かるでしょ?」

 私もあまり友達が多い方ではないけれど、アリアはそんな私より友達が少ない。理由は簡単。アリアは、金髪碧眼の目鼻立ちのはっきりした目立つ美人な上に、出る所が出てひっこむところがひっこんだ、羨ましいことこの上ないグラマラスなスタイルなので、とてもモテるのだ。だけど、イケメン好きではあるけれど、美人なのにさっぱりした性格に悪い所はあまり見当たらない。それなのに同性に好かれないのは、やっぱり強すぎる気性が問題な気がする。ハイスクールの時、アリアに一目惚れしたボーイフレンドに振られた女の子に、アリアが言い捨てた一言を思い出すと、私は今でもぞっとする。

「もしリーチ兄弟と遭遇して、どっちかにナマエが気に入られたら、その時は私の事なんて気にしなくていいからぁ〜!」
「そういうことじゃなくて。大体、アリアが目に止まらないのに、私が気にいられるとか、そんなことある訳ないじゃん」
「あら。わからないわよ。ナマエってば普通に可愛いんだから。ナマエが余りにもアンテナ張ってないから気付いてないだけで、ナマエって案外モテてるのよ」
「アリア……、適当なこと言って慰めてくれなくてもいいよ?」
「本当のことなんだけどね〜」
「お願い、ナマエ。今日だけでいいの!」
「大体、アリア、今キープ何人いるの? その男の子たちはいいわけ?」
「それはそれ、これはこれよ。
 お願い! ナマエが前に気になるって言ってた有名な『クローバーハウス』のタルト、好きなだけ買ってあげるから」
「好きなだけ……」
「決まり。
 食べたいタルトの種類、考えておいて!
 待ち合わせの場所は、あとでメッセージするから〜」

 まだ、いいなんて言ってないんだけど。
 私の返事を聞く前に、アリアは一方的に言って、次の講義があるからと足早に学食を立ち去った。お昼の休憩時間はまだ20分も残っているのに、言いたいことだけ言って逃げるなんて。
 どうしよう。アリアの頼みを私は了承なんてしていない。だから、アリアの誘いを無視するのは簡単だ。でも、タルトを好きなだけ買ってくれるというアリアの提案した対価。それはとても魅力的だった。うっ……、アリアのやつ、私の掌握術をわかってる。


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