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You let me breathe.


 レオナ先輩と見知った仲になってからというもの、私はレオナ先輩が寝ている植物園に度々足を運ぶようになった。何をする訳でも無いけれど、レオナ先輩といると不思議と落ち着くからだ。レオナ先輩は一国の王子だから、こんなことを思うのは失礼かもしれない。けれど、レオナ先輩と私の境遇は似ている気がして、そこに私は安心感を見出していた。私には帰る家が無い。レオナ先輩は帰る家はあるけれど、そこに居場所が無い。

 ナイトレイブンカレッジがホリデー期間となっても、実家にあまり帰りたがらないレオナ先輩は、学園に残ることが多く、ホリデー期間中も、植物園でお昼寝するレオナさんに付き合ったり、一緒にご飯を食べたりして、私たちは寄り添って過ごしていた。同じ孤独を抱えているレオナ先輩は、私にとって精神安定剤のような存在だった。
 それなのに。

「今度のホリデー、帰ることになった」
「え?」

 いつものように植物園で昼寝しているレオナさんのもとへ行くと、レオナさんは言いにくそうに私に言った。そっか、今回は帰るんだ。……私を置いて。

「兄貴が国の新しい政策について意見を聞きたいってうるせぇ。最近は帰ってなかったこともあって断れねぇんだよ。めんどくせぇが今回は仕方ねぇ」
「そう、ですか。レオナ先輩、頼りにされてるんですね」

 レオナ先輩は、同じ孤独を抱えていると、私たちは似た者同士だと、そう思っていた。けれど、それは私の都合のいい妄想なのかもしれない。嫌われ者の第二王子と、レオナ先輩は自らを指して言うけれど、レオナ先輩は兄である国王からの信頼が厚いことからもわかるように、とても聡明な人なのだ。それは、レオナ先輩が求める形ではないのかもしれない。けれどきっと、レオナ先輩は夕焼けの草原という国に必要な人。

 そう、この世界で、何の取り柄もなく、誰にも必要とされていないのは、きっと私だけなのだ。

「はぁっ、はっ……」
「……オイ、ナマエ! どうした?」

 さっきから息が上手くできない。苦しい。ただ、わかっていた事実を思い知らされただけだというのに、私は相当ショックだったみたいだ。レオナ先輩は優しいから、ひとりぼっちの私に付き合ってくれていただけ。ただ、それだけだったのに。

「過呼吸になってんな。いいかナマエ、ゆっくり息を吐け」

 なにかレオナ先輩が言っているが全然聞こえなかった。呼吸は苦しくなるばかりで、もしかしたらこのまま死ぬのかもしれない、と私はぼんやりした意識の中で思った。
 ふいに、レオナ先輩が私の肩を優しく押した。芝生に倒れた私の視界はレオナ先輩と植物園の緑、それから色鮮やかな花でいっぱいになった。

「悪い、応急処置だ。許せ」

 レオナ先輩はばつの悪そうな顔をした後に、私に優しく口付けた。突然のキスにびっくりしたけど、全然嫌じゃなかった。レオナ先輩とキスを交わしている内に、私は段々と息ができるようになっていった。
 私の呼吸が整うのを確認すると、レオナ先輩はキスするのをやめた。唇を離したレオナ先輩は、私の頬にそっと触れて言う。

「帰ってくる。お前のもとに帰ってくるから。だから待ってろ」

 そんなに優しく見つめて言われたら期待してしまうではないか。この世界で、レオナ先輩が私の居場所になってくれることを。私が泣き言を呟けば、レオナ先輩は一瞬目を丸くした後に、当然のことのように言い放った。

「なに言ってんだよ。俺はとっくにそのつもりだ」

 思えば、この世界に来てからずっと苦しかった。だけど今、ようやく息が出来る。

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