てのひら

*リクエスト:ブルーノ多糖


「こういうのって何て言うんだっけ」
「さあー」
「冷え性…っていうか、低体温?」
「そんな、病気みたいに言わないでよ」

擦り切れてしまったブルーノの手に絆創膏を貼っていた時だった。彼の手は僅かな温もりしかなく、冷え性にしても重度じゃないかと名前は思った。ブルーノの手は大きく、指の先はかたい。マッサージでもするように触れながら、その不思議な手を観察していた。

「なんだか恥ずかしいなあ」
「ブルーノの手、大きい」
「そういう名前の手はちっちゃいね」
「うるさいなあ」
「何だかふにふにしてて、可愛いよ」

名前の手は暖かく、その熱は徐々にブルーノの手に移っていく。じんわりと共有されていく温もりにブルーノは目を細めた。名前の手が冷えちゃうなあ、とぼんやり考えながらも、幸福感を甘受するようにその小さい手をやわく握った。

「いい匂いがする」
「私?」
「うん」
「香水とか、付けてないんだけどなあ」
「名前の匂いがする」
「へえ」
「僕、みんなの匂いが好きなんだ」

親指でやさしく滑らかな肌を撫でると、名前はくすくすと笑う。まるで子供の戯れだ。

「匂いフェチ?」
「うーん、ちょっと違うかな。花の匂いとか、目玉焼きの匂いとか、そんな感じの好き」
「よく分かんないよ」
「何ていうのかな。あったかくて安心するんだ」

何かを思いついたように、名前は手を離した。ふと見ると、その表情は楽しそうな笑顔である。
そして、きょとんとしたままのブルーノの懐に飛び込んだ。ブルーノは一瞬よろめいたが、あわてて体勢を整えて彼女を受け止める。

「び、っくりした」
「…うーん」
「どうしたの?」
「洗剤と…オイルの匂い」
「……?」
「“ブルーノの匂い”とかはよく分かんないなあ」
「そっかあ」

自然な会話をしながら、ブルーノは少し迷っていた。
手。この持て余した手の行き場は、どうしたらいいだろう。

「…僕、名前の匂いが一番好きかも」
「そうなの?」
「なんだか懐かしくなるんだ」
「…そういえば、」
「うん?」
「匂いは、記憶と強く結ばれてるって聞いたことある」
「じゃあ、僕と名前は会ったことがあるのかな」
「それはないと思うけど」
「そうかなあ…」

ブルーノはゆっくりと、恐る恐る名前の背中に腕をまわしてみる。小さな身体は一瞬こわばり、そしてすぐに力が抜けた。とてもいい匂いがする。
なんだかしあわせだなあ、と呟くと、下からいつものようなクスクス笑いが聞こえてきた。


今だけは、頭の中の霞も暖かく優しい。気がした。









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end
2011.09.12



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