きみと持ちつ持たれつ


*Mな遊星/ただのero習作




インターホン代わりに取り付けられているベルを鳴らした。しかし何の反応もなく、物音すら聞こえない。もしかすると急用で出かけてしまったんだろうかと首を傾げながらもう一度ベルの紐を振ると、やっと階段を登ってくる音が聞こえてきた。
カチャンと錠が外されて、扉が開く。

「…メール見てくれたんだな。わざわざすまない」
「あ…いいよ、暇だったから」

素っ気ない返事をしながらつい視線を落とす。遊星の格好は、正面から真っ直ぐに見るには少し恥ずかしかった。
遊星は上半身に何も着ていない。髪はしとどに濡れて、首にかけたタオルで吸いきれない水が浅黒い肌を伝っている。ズボンは穿いているものの、ただ足を通しただけという感じでベルトもつけていない。
遊星は額から垂れる水に眉を顰めると、がしがしと荒っぽく髪を掻きあげた。

「ああ、つい今までシャワーを浴びてたんだ。…まあ立ち話もなんだ、入れよ」

遊星に促され、ガレージの中に入って扉を閉める。
タオルで髪の水分を取りながら歩く彼の背中は男らしく、背骨のあたりに水滴が滑っていくのがひどく色っぽかった。惜しげもなく晒された筋肉は若々しく隆起していて、大抵の女の子は見ただけでたまらないだろう。
彼は勿論男性だけど、女の私よりもよっぽどセクシーじゃないだろうか。


「ん」
「ありがとう」

差し出されたコーヒーを受け取ってソファに腰掛ける。サイズの合っていないサンダル(多分ジャックのだ)をペタペタ引きずって遊星も隣に座った。軋むような音と同時にマグカップの中の水面が揺れる。
ふぅ、と遊星が気だるそうに息をつくのを聞きながらコーヒーを飲む。砂糖とミルクの割合は、完璧に私好みだ。

「今日はずいぶん静かだね」
「ああ。クロウは仕事で、ジャックも今日は手伝うらしい…ブルーノは定期報告とかで、治安維持局に行った」

そうなんだ、と相槌を打って再びカップに口をつけた。
遊星が首からタオルを取る仕草ひとつにも、自分の心臓が静かに鼓動を早めているのが分かる。漂う石鹸の香りは爽やかなはずなのに、彼が纏うと艶やかな気さえした。

「…上に何か着ないの?風邪引くよ」
「今は要らない。…コーヒー、俺も貰えるか」

カップを渡すと、遊星も同じ所に口をつけてカップを傾けた。ごくり、ごくり、張り出した喉仏を上下させながら飲み干していく。
少しぞんざいにカップをサイドテーブルに置いた音に、無意識に肩が跳ねた。


「名前」


名前を呼ばれてゆっくりと遊星の方を向くと、まだ少し乱れたままの前髪の隙間に見えるその瞳は、切なげに色を孕んでいた。

腕を引かれ、ともなく口付ける。誘うように少し口を開くと、遊星はすぐに舌を割り込ませてきた。上品とは言えない音をたててキスしながらだんだん体重がかけられて、なんだか焦っているようにも見えた。
生温かい粘膜から伝わる苦味が、昴りつつある気持ちを何だかもどかしくさせる。恥ずかしい熱っぽい吐息が鼻を抜けていった。

遊星は名残惜しそうに舌を引き抜くと、私の肩にしどけなく顔を埋めて息を吐いた。
引き寄せるように腰を撫でる手つきが、妙にぞくぞくしていけない。期待してしまう。

「…すまない」

遊星が顔を上げて、耳元に唇を寄せた。


「ベッド、行こう」

この、欲情に濡れたやらしい声を、私が拒否できたためしはない。彼はきっと分かってやっている。
そう言う私も、今日ははじめからそのつもりで呼んだ事くらいは、分かっている。





*


バードキスをしながら、私に覆い被さる遊星がスカートの中をまさぐる。性器の部分を優しくなぞってから、ストッキングに手をかけた。ゆっくりと焦らすような早さで撫でるように下ろされていく。無骨な指が這っていく感覚に身体が浅ましく反応してしまって、顔が熱くなった。
遊星はそれを丁寧に足から引き抜いて、唇を離した。

「名前の足…今日もきれいだ」

遊星が上体を起こして、慈しむように私の踵に手を添える。そのまま甲や足首にキスをしていくのがまるで忠誠を誓うようで、かつ紳士的にも見えてしまう。
ただし、彼は何とかという名の紳士だ。それも、甲の部分にキスマークを残しまくるだけならまだいいと言えるくらいの。

遊星はまたひとつ跡をつけてから、今度はそこを舐めはじめた。甲の骨に沿って降りていき、指の部分まで到達する。

「……っ、ぅあ…ゆうせ、」
「ん…名前、かわいい…」

遊星のぬめる舌が、はしたない音をたてながら這っていく。足の裏から指の付け根や指の間を舐められて、気持ち悪い感触のはずなのに変な声が出る。中指と薬指の隙間を舌先でチロチロくすぐられると、思わず腰がびくついた。遊星の熱い息がかかるのにもぞくぞくする。

遊星は足先をひとしきり舐め回してそこそこ満足したのか、今度はぐいっと腕を引いて私を起こさせた。両の頬を手で支えられてするキスは、遊星の唇が彼の唾液でぬるぬるしているせいで、すごくえろい。
鼻先が付きそうな距離で荒い息をして、遊星が窮屈そうなズボンのボタンを外した。ジッパーが下ろされると、すぐに遊星の興奮しきったものが見えて驚いた。
…下着、履いてない。

「名前が来た時に慌てていたから…」

いくら照れたような表情をして言われても、こちらは普通にドン引きだ。しかし遊星はそんな事もつゆ知らずいそいそズボンから片足を抜いていた。駄目だ、もう完全に下半身だけでものを考えてる。
こめかみを指でマッサージしながら溜め息をついた。

「……名前、はやく」

そろそろと、しかし恥ずかしげなく開かれた足の中心はすでに腹部に付きそうなくらいに反り返って、とろみのある先走りで濡れていた。遊星が甘い期待に唇を震わせ、もう一度催促する。
ごくりと唾を飲み込んで、足を出した。

「ふ、ぁぁ、あっ、名前…」

彼の唾液がたっぷり付いた足で上下に擦ってやると、遊星は恍惚の表情で喘いだ。足裏に感じる体温が熱くて、私まで妙な気分になってくる。

「…ほんと、変態」
「あ、あぁっ、名前…ぅあっ」

腹部に押し付けるように指でぐりぐりと圧迫すると、遊星はとろけた目を伏せて声をあげ、口からだらしなく唾液を垂らしてその男らしい身体に落とす。こうされるのが好きなのも覚えてしまっている自分に複雑な気持ちだ。

――言っておくと、私はサディストじゃない。遊星の股間をこんなふうに踏みまくって、彼がまるで女みたいによがりながら涎でシーツを汚す姿を眺めて満足するような趣味もない。けっして。むしろどちらかと言えばマゾヒストに分類される人間だと思う。
ただ、遊星が私以上に、それも極度なマゾヒストであることが問題なのだ。

「あーあ…私の足、遊星のがいっぱい付いてぬるぬるするし気持ち悪い。ねぇ遊星、こんなに出して、女の子みたいに喘いじゃうくらい気持ちいいの?」
「んっ、ぁあ、きもち…いい、っはあ、名前っ、ぁ―…」

それでも、こうして遊星がイイようにリップサービスまでするのは、私の慈悲心ならびにちょっとした優越感が理由である。
いつも皆に頼られて、とことん人に尽くす性格で、しかもソッチ系の人に狙われるんじゃないかってくらい男前で。顔も声も素敵だし身長だってある。
そんな、老若男女にもてる完璧な遊星が、私の前でだけはしたなく足を開いて性器を踏まれて悶え乱れるのだ。これはもうサドもマゾも関係なくたまらない。今目の前にいる遊星は、私だけが知る遊星だ。

嗜虐じゃない。これはきっと独占欲に近い。

なんとか体重を支えている彼の腕はがくがく震えて、自身も限界まで膨らんでカウパーを溢れさせている。どう見ても達しそうだ。どこか辛そうに荒々しく呼吸する遊星をみとめて、私はさらに強く足でこすった。

「っひ、ぅぁあ、だめだ名前っ、そんな、したら…あっ、ぁ」

いやいやと首を振る遊星を無視して、容赦なく攻めたてる。
指で先の方をぐりぐり刺激すると遊星は目を見開いた。

「あああっ、もう、ぅぁ…でるっ、いく、あ、あ、っあああア!!」

遊星は首を反らせて、びくびく脚を痙攣させながら射精した。大量の精液が溢れ出て私の足や遊星の腹筋にかかる。熱くて粘り気のある液体が足の指に絡むのが何とも言えなく興奮して、遊星の胸板に拭うようにそれをなすりつけた。乳首のあたりを掠めると甘ったるい吐息を出している。この、変態。

「ん…名前、駄目だと言ったのに……」
「いつもそう言ってるよ」
「…そうかもしれないが」

快楽の余韻が残る表情は、少し残念そうにも見える。遊星は腹を汚しているものを掬って、指に絡ませ糸を引かせながら息をついた。

「…5日、溜めてたんだ。自分でしたくなっても我慢して……いちばん濃いのを、名前にとっておいたのに」

そう言って少し頬を染める。
どうしよう。馬鹿だ。誰がって、恋人もドン引き必至な台詞を当たり前みたいに言ってのける遊星じゃなくて、そんな言葉にちょっとトキメキのようなものを感じてしまった私がだ。どこかいじらしくさえ思えるなんて病気すぎる。私も大概に変態なのかもしれない。

遊星が早くも半勃ちしている自身を扱くと、それはあっという間に首をもたげる。片足に引っかかったままのズボンを脱いで床に投げ捨てると、さっきまでとは別人みたいにキリッと引き締めた顔になった。いつもの見事な男前である。ただし全裸だけれども。


「さて」

ぐるんと視界が回って、頭が柔らかい枕にキャッチされた。
上では私を押し倒した遊星が、濡れた唇を舐めて口元を歪めている。

「次は俺が頑張る番だな」

ぷちぷちと性急にボタンを外しながら、露わになっていく首や鎖骨のあたりにキスをする。その心地良い感触を素直に享受していると、不意に首筋を噛まれて声をあげてしまった。これは、私が特に好きな愛撫だ。

「今度は、名前のナカにいっぱい出してやるから…」

低い甘い声で囁かれて厭らしく耳を舐められる。ぞくぞく背中があわ立って、興奮で分泌された唾液をごくりと飲み込んだ。


ありのままの姿をさらけ出す彼も愛おしく思う。

でもやっぱり――たとえ演技だと分かっていても、サディスティックに私を噛んで普段からは想像もつかないような淫語を吐きまくる遊星もまた、私としては本当に、たまらないものがあるのだ。













‐‐‐‐‐‐‐‐
end
2011.03.04



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