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ここで朝を迎えたのはいつぶりだったか。目を覚ますと、隣で眠っていたはずの彼はいなかった。シーツの半分はもう冷えかけている。

欠伸をしながら作業場の方へ行くと、遊星はもう機械を弄っていた。おはようと声をかけると、ちゃんと振り向いて返事をする彼の機嫌はかなり良いようだった。昨日は夢を見ずに眠れたのだという。彼の"眠れた"がどのくらいの時間かはともかく、確かに酷かった彼のクマはいくらかましになっていた。
とはいえ彼はまだ回復していない。しかしベッドに戻そうと腕を引っ張ったりなんだりしても、彼は頑として動こうとしなかった。そのうち私には目もくれず作業を続ける。
こうなれば遊星は何を言っても聞かないだろうと判断し、私は溜め息をついて、とりあえず栄養価の高い朝食を作るべく粗末なキッチンへ向かった。




遊星は私達が思っていた程度より重症だったらしい。食事ができても静かに首を振る彼の口に無理やりオートミールを突っ込んだ、のだが。しばらくの間ろくにものを入れていなかった彼の胃はひねくれてしまっていて、遊星は何を口にしてもすぐにもどしてしまうのだった。どうしたらいいのだろう、このまま何も食べなかったらもちろん彼は死んでしまうし、しかし苦しそうに喘ぎながら食物を拒絶する姿は本当に、辛くて堪らない。
どんな食べ物なら彼の胃に入れることができるだろうかと思案しながら濡らしたタオルで彼の口元を拭う。されるがままだった彼は、しかしその口から思いもよらない提案をした。


「名前、はやく」

本当にするの、という視線を投げかけても、遊星は急かすだけだった。いやこれも大切な友人のためなのだ。そう自分に言い聞かせて、ゼリーの入った四角いチューブのキャップを開ける。これは栄養食品で日持ちもするから、彼が一人でも何とか食事ができるようにと以前ここに置いていったもののひとつだった。
チューブ口を咥えて、ちゅううとそれを吸う。化学香料の匂いが口の中に広がった。美味しいとも不味いとも言えない。
ある程度を口に含むとそれを離す。ちらりと遊星を見ると、彼は頷いて小さく口を開いた。とにかく苦しい、もうどうにでもなれと私は遊星に口付けた。

「………っ、」
「……ん、く…」

遊星の咥内に、流動物を流しこんでいく。彼の喉がごくりと動いて、それを飲み込んでいるのが分かった。ファーストキスを幼なじみの食事に捧げるなんて人は世界中探してもなかなかいないんじゃないだろうか。
ごくり、ごくり。ひとしきり彼にゼリーを受け渡した時にはすでに酸素不足が限界で、私の肺は音をあげていた。ぷはっと口を離して呼吸を整えると、目の前の遊星は少し不機嫌そうな顔をしている。どうしたのかと聞こうとした言葉は、彼によって再び塞がれた。

「ふ、…ぅっ」
「……はぁ、…」

後頭部を抑え込んで、今度は彼が私の中を動き回った。差し込まれた舌が別の生き物のように内側を舐めていく。遊星はなぜだか夢中なようで、がぶがぶと食べるみたいにそれを繰り返した。

散々貪られてようやく解放された時、お互いのそこは唾液とゼリーの溶けたものでべとべとだった。うまく息ができなくてぼうっとする私の口元を遊星の指の腹が拭って、それを嬉しそうに彼は舐めた。

「うん」

遊星は愛おしげな笑顔で頭を撫でてくれた。こんなに優しい表情を見るのは久しぶりで、なんだか力が抜けてしまう。

「これなら、大丈夫だ。もう一口食べよう」


私は彼を任されたのだ。だから、なんとしてでも彼に食事をさせて回復させて、元気にしなければならない。彼の身体が本当に壊れてしまう前に。

よかったね、となんとか笑って、再びチューブを手に取った。





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