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ちいさな体だ。このままぐっと力を込めてしまえば、とても簡単に、名前は息をしなくなるだろう。
いとしいきみ。





知らないふりをしていた。名前の肌が白くなっていく事も、瞳の色が濃くなったことも、零れてくる陽に透ける髪がいっそう美しくなった事も。自分のきれいな感情が朽ちてしまったことも。しかしどうしてこんなに幸せなのだろう。きっと孤独ではないからだ。もう失うことはない、これがうつくしい愛ではないかぎり。

だからもう何もかも手遅れだった。掌で掬いきれずに、連鎖的にぽろぽろと零れ落ちてしまったものの中で残ったのは、ただ醜い貪欲だった。どろりと留めなく溢れ出る独占欲に狂ってしまえば、あとは実に簡単である。人間はなんて脆いものだろう。

嘘をついた。彼女を汚してしまわないように、この感情をたくさんの愛情を込めて塗り固めた。やさしい彼女は俺のどんな嘘も信じてしまう。俺が嘘をつくなんて思ってはくれないのだ。彼女の瞳に映る俺はいつでも変わらなかった。その事実だけは、愛と呼ばせてほしい。

罪を犯した。ずっと彼女を汚さないようにしていたのに、汚れないでいて欲しかったのに、他でもない自分が汚してしまっていた。いつからだろう。やさしい彼女は俺と一緒に狂ってしまったのだろうか。穢れた嫉妬に毒されてしまったのだろうか。汚れた彼女はもっともっとうつくしくなった。これは罪だ。お れ の 罪 だ 。


「ゆう、せい」

酸素を取り込もうとする名前の喉が、ひゅうと音をたてて小さく鳴いた。両の手でゆっくりとそこを圧迫していくと、彼女の瞳がまた綺麗に滲んだ。いとおしい。君がいとおしい。

「あいしてるんだ…」

囁くようにそう言うと、彼女は一瞬だけかなしい顔をしてから、儚い笑みを浮かべた。
もうその先の言葉は口にしなかった。ああ、どうか、許してほしい。この感情がけっして愛ではなかったことを。



錠や枷は要らない。
きみは薬なのだから。












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end



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