オ レ ボ ク ワ タ シ 実は、私(わたくし)、貴方に常々訪ねたい事があったのです。 私(わたくし)が、三年前のあの日に頭に怪我を追った事を覚えておりまして? そう……確かによく心配して下さったみたいですわね。 メールや手紙に花束などを戴いた記録がありますもの。 え? 別に気に入らなかったのではありません。 ただ私(わたくし)にしてみれば、窓の向こう側としか認識しておりませんの。 あぁ、話しがズレましたね。 貴方は私(わたくし)にこう仰いましたよね。 『記憶を失っても、君は君だ』と____。 本当にそうなのでしょうか。 あの事故は本当に酷かった、と言われておりますね。 ニュースでは世紀の大事故とか囃し立てておりましたね。 貴方はあの事故で私(わたくし)が失ったのは記憶だけだと勘違いなさっているようですけど、違います。 彼女(ワタクシ)はあの事故で肉体の八割以上が破損及び欠損を致しましたの。 私の腕も、足も、この顔も、今や彼女(ワタクシ)が本来持っていたものではないのですよ。 生きられている事を幸いとするのならば、私(わたくし)は確かに幸運だったのでしょうけれど。 貴方もご存知のように、私(わたくし)の家は大富豪。 お金と伝手と権力で、彼女(ワタクシ)の脳はガイノイドに移植されました。 最先端技術と言えども、まだまだ至らない点は多かったのでしょう。 移植こそ成功致しましたが、彼女(ワタクシ)はそれまでの記憶を失いました。 知識こそ転写でいくら映せても、彼女(ワタクシ)が何を感じ、何を好み、何を考えていたのか。 表面上は彼女(ワタクシ)でなくとも、追う事は可能ですよね。 ですが、その情報が本当に正しいのでしょうか。 例えば、彼女(ワタクシ)はチェリーパイを好んでいたそうですね。 ですが、真実、彼女(ワタクシ)は好んだのでしょうか。 周りが勝手に彼女(ワタクシ)が好んだと思っているだけではないでしょうか。 私(わたくし)は正直、出されたそれを必要だと思っておりません。 私(わたくし)の体はガイノイドに移植されたので、食物はいりません。 そもそも味覚の機能がありませんもの。 両親《あの人たち》は私(わたくし)に彼女(ワタクシ)の役目を求めておりますけど、それって本当に彼女(ワタクシ)なのでしょうかね? 私(わたくし)は、体の良い人形なのではないでしょうか。 だからこそ、貴方に、尋ねます。 わたしは、誰ですか。 150105 なろう掲載 160508 転載 戻る |