奇妙な男の独り言

「黄昏(たそがれ)、誰(たそ)彼(かれ)、逢(おう)魔(まが)時(どき)、大禍時(おおまがどき)。夕暮れとは昼と夜の境界であり、終焉を指し示す。北欧の神話では、”ラグナロク”を”神々の黄昏”と訳される。まぁ、実にどうでも良い事だが。世界には色々な境界がある。例えば昼と夜。例えば過去と未来。例えば生と死。境界がはっきりとしているものも、判然としていないものも世の中にはある。黒と白の間には灰色があるように。境界と言うものは時に歪み、時に揺らぐ。歪みやすいのが悪と正義なら、揺らぎやすいのは感情の正と負だろうか。境界には古今東西、聖魔が含まれる。橋は黄泉に続く伝説も、大きな樹木の根に死者の国があれば天上に神の国を思い描く。境が神秘を宿してるのは神社なんかもそうなのだろう。特に光から闇へ変わる時、人は魔を見る。夕暮れの異称が多いのはきっとそれを含む境だからだ。それにしても、人間と言う生き物は実に不思議だ。死にたいと彷徨う昨日があれば、生きたいと走る明日がある。だからこそ、揺らぐ様が時に美しく、時に醜いのだろう」

 ふぅ、と男は溜め息を零した。先ほど見送った魂は此岸(しがん)へと帰っていた。その魂に憑いていた死霊も彼岸(ひがん)へと渡った。その男だけが残される。ここは狭間。生と死の境界。男はこの世界を揺らし魂を判別するもの。数多の魂はここに流れ着き行く先を決める。男はただ見ているだけ。

「まぁ、次が来るまで待つとしよう」

 男は嗤った。




主要登場人物

○私…………境界を彷徨う者
 『おうまがどき』の主人公。彼女の視点で物語は展開していった。
 父と母と弟の四人家族だった。母と弟と死別し、今現在父と二人暮らし。自分だけ生き残ってしまったことに対して無意識に自責の念を持っていた。だから、彷徨っていた。

○友人…………彷徨う者を向こう側に引込む者
 主人公・私の友人。小動物めいた可愛い少女。本編のメインキャラの一人。
 小学校の頃の私の友人だった。可愛らしかったのでろくでもない大人に誘拐されて、死体が奥山に放置されているのを発見された。自分が死んだ自覚はなく、寂しくて寂しくて誰でも良いから縋りたかった。

○弟…………彷徨う者をこちら側に引き戻す者
 主人公・私の弟。本編のメインキャラの一人。
 小学校低学年の頃、川に流されて溺れて死んだ。それ以来私をずっと見守っていた一人。

○奇妙な男…………境界を揺らす者
 死神みたいなものと考えても良い。この作品の原因にして傍観者。



120819 なろう掲載
160507 サイト掲載



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