男は気まぐれで悪趣味だ。
ゴミのような食事から、一流のコース料理。服は布切れからドレス。独房からどこぞのスイートルームのような部屋。
名前の身に染み渡らせるように贅沢を堪能させたのなら、突然手のひらを返して地に叩き落とす。これの繰り返し。

こんな生活に慣れるわけがない。男に会うのが恐ろしい。それでも地下の独房から呼び出されてしまった名前は疲弊しきった顔で彼の待つ部屋の扉の前に居た。
汚れた身を清められ、袖を通したのはナイトドレスのような黒のネグリジェ。これから起きるであろう事を想像しただけで名前は泣き出しそうだった。
それでも遣いの研究員によって扉は開かれ、背中を押されて入室する。

『………』

空気はより一層重みを増し、相変わらず黒い服装でベッドに掛けるウェスカーが視界に入れば、圧に体は押し潰されそうになる。


「来い」

動く気配のない名前に向けて彼は言った。

名前は身を震わせて男のもとへ向かい、座る彼の前に少し距離を置いて立つ。

サングラスの奥の瞳は何を語るか。当然、もっと近寄れとウェスカーは手を伸ばす。

じりじりと間合いを詰め、男のテリトリーに入った瞬間名前は腕を掴まれた。静かに引き寄せられるも、ウェスカーに股がるわけにもいかない彼女は引きぎみに腰を曲げる。


『――あ゛ぅっ!?』

不意に髪を鷲掴みにされたと思えば名前は男の胸に顔から突っ込んだ。すぐに離れようとしたがウェスカーはわざと押さえつけているようで、髪を離してと手を剥がしにかかろうとするも、より鈍い痛みと息苦しさに襲われる。

耐える他ないと考えた名前は仕方なく男の太股の上に置いた拳をきつく固く握り締め、じっと堪えた。
窒息しそうになりながらも大人しくなったことが認められると、ある時拘束がふわりと弛み、しかし離れようとするとまた乱暴に押さえ付けられる。


「服従しろ。俺に忠誠を誓え」

唐突に言い放たれた命令、どうしろと言うのか。名前は動けず瞬きを繰り返す。しかし彼女は痛みから逃れようとするうちに、あることに気づいた。
それは彼の体から唇を離そうとした時だけ、ウェスカーが強く頭を押さえつけてくること。

――服従とは、忠誠とは…。

男の胸に唇を押し付けたまま、髪を引く彼の手に導かれて名前はウェスカーの腹のラインを下り始める。
張り付けたままの唇は次第に乾いてきて辛い。だが離すことは許されない。

ならばと名前はこまめに、小さく、男の体に口付ける。

これに満足したようで、髪を乱暴に掴んでいたウェスカーの手は添えるだけになった。

「そのまま爪先まで続けろ」

まるで奴隷。いかにも男が好みそう。名前はできるだけ無心になることに努めウェスカーの腹を唇で下っていった。腹筋の山を仰せのままに愛でてゆく。
順調に事なきを得るかと思いきや、臍まわりになった頃、名前は居たたまれない気持ちになる。


『…痛っ…!』

名前の動揺を感じ取ったウェスカーが手綱を引くように髪をぐっと引く。
彼女が口付けるのを躊躇っている場所は言うまでもない。
ソコ。脚を広げた男の、いくら衣類の上からとはいえ、性的象徴の場に口を添えるということは容易くできる行為ではない。

名前は勇気を振り絞ってウェスカーの表情をちらりと窺う。だが心臓を握り潰されそうな鋭い視線にすぐに目を反らした。
やはりここを通らずして彼が解放してくれることはなさそうだ。

名前は意を決して男の脚に割り入り、ソコに小さく口付けた。なにかされやしないかと逃げるようにすぐ内腿に唇を移して、ソコの代わりに念入りに腿に口付けてみたが、幸いウェスカーは特に気に留める様子もなく、罰もなかった。

何食わぬ顔で膝、脛、床にへばりついて足の甲、爪先…。峠を越えれば羞恥心も屈辱感もない、あるのはいつもの理不尽さだけ。
片足を最後までやり遂げて顔をあげると、ウェスカーの顔からサングラスが消えていた。直視できない赤い目に見下ろされ、威圧感に名前は顔を伏せる。

『…!』

「爪先から上がってこい」


座り込んでうつむいていると、まだ口付けていない男の片脚に蹴られた。
名前はもう一度男にひれ伏し、言われた通り爪先から口付ける。吸い付くように押し当てて、乾いた唇を舌で濡らす。脛、膝、太腿。ソコへ向かうのが嫌で仕方がなく、男の太腿ばかり念入りになる。

『痛いっ!』

けれど結局髪を引かれて、強制的にソコへと場所が移される。

『………っ』

あと一回、これで最後。だが拭い去れない胸騒ぎ。名前は思いきって男のソコへ顔を埋めた。

『―――ン゛ッ!?』


すぐ離そうとした顔を上から押さえ付けられる。名前の唇に擦り付けるようにして、男は腰を嫌らしく上下に揺らし、笑うように息を漏らす。
ソコを愛でさせられる恥辱、みるみるうちに男の形が浮かび上がってきた。本当に咥えさせられているような、どのように形が反って肥大し硬くなってきているのか唇で感じる。


名前が自らソコを愛でない限りウェスカーの責めは止まらない。名前は震える唇を使って布越しのモノを舌で撫でる。

見下ろす屈服した娘は顔を紅潮させて目を潤ませる。男の快感は光景に反応して振り切れた。


『ぁうっ…!』


また髪を強く引かれ引っ張られると、名前は気儘な主人から一口、噛みつかれるような口付けを受けた。

そして捨てられるようにベッドの上に上がらされると、名前はウェスカーの威圧感に負け、彼の好きなように俯せに押さえ込まれる。

『……ひっ!』


蛇に絡み付かれるように背後から抱かれ、手を握られる。主人の機嫌はかなり良いらしい。
腹に手をまわされ腰を突き上げるよう持ち上げられると、ピッタリと密着させられた猛る男の感触は、今か今かと名前をナカを抉る瞬間を待ちわびているようだった。

「名前…」

『――ッ!?』

名前の下腹部に強い快感が走る。


「名前…」

ウェスカーの唇が耳を這う。
やはり気のせいではない。名前を呼ばれると耐えがたい快感に襲われる。


「名前…」

『…っ!』

「…どうした?」

彼はいたぶるように楽しんでいるようだった。声を抑えるも跳ねる名前は何が起きているのかわからない。

――名前…名前…
立て続けに呼ばれる名前。
触れられていない場所の感度は爆ぜる直前まで高まり、男の腰も擬似的に行為を思い起こさせるような、突くように怪しく緩く動いて名前を追い込む。

「名前」

『っあ…!?』

――ビクンッ!、男のモノを感じながら名前は突き上げた腰を大きく長く痙攣させた。


『ッ…!ッ、―…―ッ…!!』

「達したのか…?」

顔を見ずとも耳元で意地悪く囁くウェスカーが卑しく笑っているのはわかる。悔しくても痙攣が止まらない。名前はマットに顔を沈める。

『なにっ…、したのっ……?』

男は低く喉を鳴らして笑う。

「…いいや、何も」


そう、道具も薬を使っているわけでもなく、特別なことは何もしていない。

ただ彼は名前を掻き抱く度に失神させ、何度も名前を甘く呼び続けただけ。
名前を呼ばれること=快感。
認識させるためにウェスカーは朦朧とする彼女に仕込み続けた。

ああ、望まぬ条件反射。
名前の体は男のモノの味を知ってしまった。

『んんっ…!』

ウェスカーはまだ絶頂の余韻に震える名前の唇を背後から強引に奪う。
彼女の体を仰向けに返し口を舌で荒らし回って、まだ衣類越しに触れ合う下腹部を抉るように腰を打ち付ける。


「名前…」

『お願いっ、やめてっ……!』

「…嬉しいか?」


とうの昔に心を折ってやった小娘。
だが1度として満足のいくように飼えたことはなかった。
自分に依存させ裏切ったとき、彼女はどんな顔をするのだろう。

考えただけで男の下腹部は蕩けそうになる。

ウェスカーは己を拒む細い腕を手中に収めて、名前を食らう。

焦らして、高めて、狂わせて。あの極上をもう1度。

====前戯====

懇願空しく、名前の悲鳴は男の牙に噛み砕かれる。

外されるウェスカーの黒手袋。

神様なんて、信じない。


――――――
アンケートより素敵なご意見ありがとうございました!
痛め付けられて甘やかされる。
てぃ〜にゃの妄想脳にはありがたすぎる刺激です(⌒‐⌒)

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