ふぁごっと | ナノ
02
「!」
今宵は生憎の曇り空。月は雲の遥か上。
先日の仕事で手に入った金で遊んできた帰りだった。
光の届かない細い路地裏から悲鳴が聞こえた気がした。
悲鳴を聞くのはほぼ日常茶飯事みたいなものだ。どうなってんのか興味はこれと言ってない。げれど帰路なのでこれはどうしても通過することになる。
『ぃ、やっ…!!誰かっ…ぅ゛!!』
「うるせーなぁっ…デケェ声出すんじゃねぇーよっ!!」
結果、単純に女が男に襲われてるだけだった。盛んだね。殺人現場でもあれば退屈凌ぎになったかもしれないのに。
ここで勇敢な一般市民なら止めにはいくか、そうでなくても警察に通報するだろうけど俺は気分屋。早く帰りたいからしない。
『助けてっ…!!!!』
「ッ!?」
素通りしようとしたら目の前で叫んだ女の声が頭のどこかで引っ掛った。
―――あれ待てよ…このどっかで声聞いたことがある?
「あ…」
――――……まさか、な。
予定変更で進行方向を変え犯行現場にズンズンと突き進む。
「オイ」
「っ!?なんだよオマエッ!?」
「……」
まさに今襲おうとしている男の下敷きになった女の顔を覗き込む。
これには素直に驚いた。
まさかのまさかは本当に起こりうるモンなんだな。
なんと気絶して倒れている女の顔は確かに『あの時』の女だった。
「…ソイツ、俺の女だよ」
「は…?」
「だから…俺の女だって言ってんでしょォ〜、がっ!!」
「ぎゃっ!?」
男の面に一発蹴りを入れてやった。下半身露出して無防備な変態には調度いい一撃。
やはり男は小心者で小突いた程度で一目散に退散していった。鼻で笑ってご丁寧にお見送り。
溜まってんなら風俗でもデリヘルでも使えっての。
「あ〜れまァ〜…」
犯行現場は実に悲惨だ。
随分とド派手に襲われたようなのか着ていた衣類はただの布切れと化している。顔には青アザ。大事なトコは全部露。でも考えてみれば俺的にはかなり美味しい展開じゃないか。
――じゃァ早速前回出来なかった分イッちゃいますかァ〜〜…?
って冗談は置いといて。
「取り敢えず連れて帰るかね…」
着ていた背広を彼女を着せて応急処置を施したら後はお姫様抱っこでお持ち帰りモードな俺。
白さんだけが踏み抜く不思議な階段付きアジトもここからならそう遠くはない。
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