ふぁごっと | ナノ
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『ンンッ……、痛っつ…』

意識がはっきりする前に頭を鈍痛に襲われて身を丸めた。

『……!?』

――――ここはっ!?

いきなり体を起こしたことをかなり後悔した。最悪の気分、全身を揺さぶられたような、まるで船酔いしたみたい。自分が今いる場所は黒いさらさらのシーツが敷かれたベッドの上。見たことのない奇抜なインテリアが置かれたこの部屋。着替えた記憶のない服はあるはずのないドレスに変わっている。

『伸二さん…』

いくら頭が痛くても記憶がなくなったわけではなかった。今になってとても怖い。彼が撃たれてしまってそれから全一と呼ばれる人に…どうされたんだっけ…。ここに来るまでの記憶だけがない。辛いが都合よく記憶喪失にならなくてほっとした。


「起きたね」

『!?!?』

「どう?眠れた?」

…全一。最初からそこに居たようにどこからともなく現れた。

『………伸二さんは、どうなったんですか?』

「はぁ、起きたと思えば早速西園伸二についてですか。……随分と上手く手懐けたなぁ…」

『…………っ』

「大丈夫ですよ。生きてます」

彼は私の隣に掛ける。


「そんなことより…はい、名前にプレゼント。きっとよく似合うと思うよ」

『っ…!?』

「ほら、つけてあげるね」

よく見る前に彼は首に何か巻き付けてきた。
一瞬息ができなくなって剥がそうとすると緩めて調整する。


「似合う似合う!可愛いよ」

プレゼントは私には見えない。少しだけ指を挟める隙間ができてもやっぱりきつい首に巻かれたこれ。よく見るとぷらんと垂れた紐の最後は彼が握りしめている。


『……首輪?』

「そ、首輪」

きれいな顔でにっこり微笑む全一。ギリギリと首が締まりはじめる。苦しいから姿勢が前のめりになって引き寄せられていく。
指で顎を掬われて上向きになると当然のように施された口付けを腕を突っぱねて胸を押し返したところで意味はない。味気ない舌は物足りない。唇同士が離れても彼は首筋を下へと這って伝う。ちくりと痛んだ。一度で終わらない理由はなんとなくわかった。伸二さんがよく痕をつけてくれた場所だった気がする。そう考えると場所を転々と上書きされているのか。

彼は顔が離れると影一つない純粋な笑顔を浮かべた。初めて伸二さんと会った時を思わせる、あの時と同じくらいの恐怖を感じた。鳩尾を内側から抉られる感覚に返す言葉もなくて、それを見てもっと楽しげに彼は笑った。


「あぁ、あとそれからわかっているとは思うけど、僕の名前「鈴木さん」じゃあなくて「全一」だから。名前の好きに呼んで」

当然のように、再び全一は口付けを私に施した。まるで恋人みたいに。


「大事に可愛がってあげる」

====嘘つき====

囁かれた言葉に生きた心地がしなかった。
私はどうなるんだろう。



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