ふぁごっと | ナノ
07
ボロボロだけどとても住み心地のいい私のアパート。木造だけど、お気に入り。何一つ余分なものがない、貧乏だけど幸せでいられるこの場。
お風呂に入って、無造作にタオルで髪の水気を払う。あたたた…目が痛い。あとで病院行かないとダメかな?眼帯も買わなきゃだ。
私は家についても尚悩んでいた。
警察に連絡するかしないか…
人一人目の前で死んだのを見たのだ。
気を落ち着けて考えてみれば向こうが都合よく嘘をついていたかもしれない。
『よし…』
受話器をとり深呼吸。
決めた。するだけ警察に通報しよう、と。
『……』
ならばどう説明しよう。
漠然とした内容では信じてもらえないだろうし逆に疑われてしまう可能性だってないわけじゃない。
思い出したくない悪夢のような光景を、気力を振り絞って手繰る。
――――――――――
『――痛っ!?なっ、なムッ!!』
「うっせぇな騒ぐんじゃねえよ…!!」
『ムッ…!!ムゥッ!!』
――――――――――
……違う…思い出すはそっちじゃないのに…
『……ッッ!』
殺人現場の記憶よりも浮かぶのは自分が襲われている場面。
―――ガタンッ!!
息は知らぬ間に荒くなっていて、手足は震え受話器を落としてしまった。
『……ッ、っ…、…ッッ、』
駄目だ…。色々いっぺんに起き過ぎたんだ。
一旦忘れるくらいに落ち着かなきゃ。
お茶でも…飲もう……それからちょっと寝よう。
そんな時だった。
――――ドンドンッ!!
ドアが乱暴にノックされた音が部屋に木霊する。
『…っ、こんな時に誰なんだろ……』
セールスならとっとと追い払って…
――――ドンドンドンッ!!
『はっ、はぁ〜いっ!!』
覚束ない足取りでドアに駆け寄り、私はドアノブを捻る。
―――――カチャ…
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