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片足のヒールが折れてしまった赤いハイヒール、彼からもらったものらしい。
地べたに座って化粧がぐちゃぐちゃになるまで泣きつくした彼女は燃え尽きて黒い炭になった男を茫然と見つめていた。
泣いて治まって泣いて、かれこれ2時間は繰り返してる。
「気は晴れたかい?」
純粋な彼女は男にとってはイイ鴨だった、ってオチ。俺がもらった依頼料だって本当は彼にあげる高級時計のための貯金だったんだから、浮気されてた挙げ句ヤってるとこまで見て「愛してない」なんて言われたら壊れちゃうだろうね。
そして返ってくるのは返事じゃなくて嗚咽。
また煙草が一本消える。
「!」
急に動き出すと彼女は灯油ケースを持ち上げて残りの灯油を頭のてっぺんから全身にブッかけた。
『ライター貸して…ッ!!!!』
「はいよ…」
別に俺は躊躇うこともなく貸してやる。
彼女は震えながらライターを胸元で握り締めてる。
『…ッ…っっ、……ッ!!ッ…!』
「………」
『……ッ!!ッ、―――――ッ!!!!』
あーあ…死んじゃうのかな〜、なんて思ってたけど
『ね…ぇ……』
そうじゃなかった。
「ン〜?」
『……………助けて…』
「……」
『お金…また払うから……返すから……だからッ…』
「……」
『……契約…延長ッ…、お願い……しますッ……』
吸ったばかりで勿体ないとは思うけど、煙草を吐き捨てて俺は屈んで彼女の目の高さに視線を合わせた。
ライターを握り締めたまま離せなくなった彼女の指を一本一本優しく解してやった後はライターを取り上げて後ろにポイ。
「高くつくぜ…?」
『通帳は…』
「チッチッチ…そうじゃないのよ名前ちゃん……」
カバンを取ろうとする手を遮って灯油まみれでベタベタな彼女の前髪を掻き上げておでこにちゅっ。
にっげぇ…
けど驚いた顔も可愛いじゃない。
「アイシテル…これ意味お分かり?」
お姫様抱っこで抱き上げると小さな悲鳴が上がった。
真っ赤なほっぺにもいちどちゅっ。
美味しい展開お持ち帰り〜
====Evening Wear====
あ、後でライター買わねぇと。
―――――――
依頼人がタイプだったときの西園さん。
イケメンすぐる。
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