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『――、……ッ!!』
呼び掛けられて目が覚める。ピアーズの顔を見ればさらに目が冴えわたる。
「そろそろ行こう」
どうやら彼女は一休みしようと入ったモニターだらけの荒れた警備室で、浅くも眠ってしまったようだ。
まだどこかぼんやりしている名前はかくんと頷くと、背を向けたお決まりの体勢のピアーズに気力で抱き付いた。
ぐったりしていたせいで背負われた弾みで彼の頬と触れ合う。濡れたピアーズは冷えきって氷のよう。
『つめたい…』
「もう少しの我慢だからね」
『……』
名前は首を振る、我慢なんかしていない。
なにせ熱っぽい彼女にとって冷たいピアーズは居心地がいい。体力が一時的に戻ったのか、名前の意識は再び眠りへと誘われていく。
「名前…?」
急に動かなくなった名前にピアーズは一瞬まさかと思い肝を冷やしたが、辛そうでもないし、眠るような呼吸を聞いて彼は胸を撫で下ろした。
警備室から出て白い通路を歩き出したピアーズは早々、地図以外に一つ気掛かりなことを思い浮かべていた。
それはルートの確認中、警備室の監視カメラに映った「影」のこと。
ただ一瞬現れ消えたそれは一度きりで二度と現れることはなく、単純画質が粗く偶然映像が乱れただけだったかもしれない。
「(考えるだけ無駄か…)」
無線も音沙汰なし。とにかくエレベーターに辿り着けさえすれば目処が立つ。無駄口は心にしまって、ピアーズは似たような通路を選別していった。
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