18

水から上がってそれほどたたないうちに、脱力した体を背負ったピアーズはとある部屋の自動ドアをくぐる。

彼女が顔をあげれば目に入るのはずらりと並んだロッカー。見ての通りのロッカールームだ。

名前はゆっくり下ろされ、前以て用意しておいたらしい着替えをロッカーを開けて持ってきたピアーズから受け取る。


「無理に着替えさせるつもりはないけど、濡れたままでいさせるのもどうかと思ってね」

『これ…』

「白衣2枚と、スラックス1枚。申し訳ないけどシャツはどうにも見つからなかった」

名前は渡された着替えを広げて眺める。

「着替えないなら何枚かタオルがあるし、着替えるなら白衣を2枚重ねかな、って…」

『……』

寒いのも、水が傷にしみるのも嫌…。
彼女の答えは即決だった。


『これに着替えたいです』

「わかった。……あ…着替えは…」

――名前はドキッとした。

『自分でなんとか…大丈夫だと思います…』

「OK。何かあったら、また呼んで」


迷った様子を見せつつもピアーズはタオル1枚を握り締め、部屋を出ていく。

聞きにくかっただろう、それでも親切な彼は聞いてくれた。
しかし咄嗟に出てしまった『自分で』という答え。


『………』

名前は早速脱ごうと試みるも、当然、水を吸った衣類は肌にぴったり張り付いて滑らず、上がらない腕は痛むため役立たずで脱ぎようがない。


『………〜〜〜〜〜〜ッ』

名前は格闘した。
思いは一つ。できることなら彼の目に触れることなく終えたいこの体…!

『いたたたっ…!!』

だが無情に過ぎる時間、体力はやたら消耗するが見た目は何一つ変わっていない。


『(だめだっ……)』

上はどうにもならない。しかし下ならどうだろう。

もぞもぞ動いて今度は下半身の着替えに移る。時間は掛かったが、こちらはなんとか悪戦苦闘しながらも自力で着替えることに成功した。

『…………』

下半身を見て彼女は我ながらなかなか際どいとは思ったが、変な動きさえしなければスラックスは脱げないだろうと片付けた。どう悩んだところでベルトはないし、このあと長い白衣を二枚も羽織る。

そして散々悩んだ挙げ句、上だけはどうあがいても自力で服を脱ぐことはできないと、名前は肩を落として諦めた。

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