02
凄まじい爆音の後に爆風に煽られ、吹き飛んだ体は舞い上がって背中から壁に激突、そこで記憶はぶつりと切れる。
『………』
視界が揺らぐほどの頭痛に額を押さえて起き上がると、辺りには同じような格好で唸りながら身を起こしている人々が沢山いた。
ああ、そうだ。ショッピングモールに来ていたんだ。しかし思い出して見上げた先には天井はなく、闇夜が筒抜けになっている。
意識は朦朧としていたが、遠くで聞こえた女性の金切り声で名前は覚醒した。
「火事だっ…」
ぼそっと誰かが言い始める、次第に皆が口々に言う。
どこからか忍び込んできた魔の煙、人々は咳き込んで噎せかえる。助けられるものならそうしたかったが、名前は自力で立ち上がるので精一杯だった。
闇の中を走り回り、時折壁にぶつかりながら出口を目指す。やがて外の世界が見えた時、人影がポツリポツリと揺らめいていた。多くの車が炎上して喧しくアラームが鳴っている。出た場所は駐車場のようだ。
人影は一斉にある方向へ走っていく。行く先に何があるのか、名前も助けを求めるため彼らのあとを追って走った。
『――――!』
急接近してきたプロペラの音に驚いて空を仰げば、突然上空にヘリコプターが現れたのだ。
それを見た名前は何度も大きく両手を振りかざし、跳び跳ね、自分の存在をアピールする。建物の中にはまだ大勢の人が残っている、その事も伝えなくてはならない。
しかしヘリは彼女に気付いていないらしく、見当違いの場所を光で照らし始めた。
名前は全力で駆け出し、自らそのスポットライトの輪へと飛び込むと、もう一度空飛ぶ機体に向けて大きく手を振った。
『―――ッ』
ピュッと一瞬、何かが耳の横を通り抜けた気がした。
また小さくピュッと音が聞こえた瞬間、目の前を歩いていた人の頭が風船が割れるように飛び散る。
肉片に悲鳴を上げる間もなく三度目の音が聞こえたとき、名前は左腕に強い衝撃を受け仰向けにひっくり返った。
『……』
何故自分が倒れているのか分からず、糸の切れた操り人形みたく横たわる彼女は目だけ動かしてみる。…霞んで見えるは人の波か?体を動かそうとしたが指先だけがピクリと動く。気分はまるで蟻に食われる蝉のよう。
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