13
清潔感のある明るい室内は最近使われた痕跡がある。

ピアーズは目に留まったパイプベッドに名前を一先ず降ろし、辛ければ横になっているよう、枕元をポンポンと叩く。

彼は早速部屋の中を詮索し始めた。
人がいたならきっと地上との連絡へ役立つものがあるはずだ。漁りに漁って手始めに見つかったのは施設内の図面。バラバラと広げて、現在地の見当をつけようと地図を睨む。

『……』

名前は腕をかばいながら横になり、狭まる視界のなかでピアーズの背を目で追った。

『………』

まるで瞼に重りでも縫いつけられたような感覚。横になった途端、どうしても目を開けていられなくなった名前はやがて眼球を動かすことさえできなくなり、怠さに負けて閉じてしまった。

『』

そして唖然。次に目を開けたとき、彼の姿は目の前から消えていた。

まるで鞭を打たれたように名前は飛び起きて取り乱す。
過呼吸気味に周囲を見渡すと、誰かに肩を掴まれて呼び掛けられた。

「名前、どうしたんだ!?落ち着いてっ…!」

『!?、ッ?』

ピアーズだ。しかし混乱する彼女は目の前にいるピアーズが実体なのか、触れられるのかわからない。やり場のない手を宙に浮かべて、瞬く虚ろな目で彼を見つめる。

「…俺はここにいるよ?もうどこにも行ったりしないから…。ね?触れるでしょう?」

ピアーズは名前の隣に腰掛け、浮いた手を取り頬に触れさせる。

『………』

彼女は彼の顔をペタペタと触った。
―――本物だ。確信できると名前自然と落ち着き、正気を取り戻す。

「ね…?」

ピアーズは支えるように名前の腰を抱くと、片手に持った地図を勢いよく広げて見せた。そしてまだ耳が本調子でない彼女のためにも、現在地を指差しなぞるように説明を始めたのだった。

「これを見て。俺達がいるのは最下層だ。でもこの施設はそんなに広くないらしい。貨物用エレベーターに辿り着けば地上に出られる」

身ぶり手振りで話される説明を一つ一つ理解していく名前は、うんうんと首を縦に振る。

「………」

不安げに真ん丸な瞳を潤ませる名前が不憫で仕方がない。彼女は目と目を合わせると落ち着くのか、安堵の表情を浮かべる。

できることなら彼女を休ませ寝かせておいてあげたい。しかし上から敵が降ってくると分かれば無防備な状態で一人置いていくわけにもいかない。

先程仕留めた化け物はおそらく【ハンター】か。となれば、群れで行動する奴らは一匹いれば、あと数匹は必ずいる。まるで湧いて出てくるゴキブリみたいに。

彼は思う。――彼女を本当の意味で安心させるためにも、とっととこんな場所から抜け出さなければ。

残念ながら地図以外、めぼしいものは見つからなかったこの部屋。

長居は無用と判断したピアーズは名前を背負い、また先へと進み始める。

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