星のおじさま | ナノ
16
心地よく眠っていたのに、感じていた温もりが離れて行ってしまう気がして、少女は行かないでと繕う指に力を込めた。
すぐに思いが返ってくる、とびきり優しく包まれて、幸せだと思いながら……そのあとのことはよく覚えていない。
「……」
ウェスカーが目を覚ました時、既に外は明るくなり始めていた。
―――シャワーを浴びなければ…。
しかし動こうにも彼の胸の上にはすやすやと眠る名前の姿が。身体を起こすため彼女を動かそうとすると肩をビクつかせて唸り始めてしまった。手は引き剥がさずにとりあえず抱きしめてみる。そうすればたちまち苦しげな顔は穏やかな表情に変わり、指も自然と解れて離れていった。
起こさないよう慎重に名前をずらして下ろす。
少女は仰向けに、男は覆い被さるように、体勢が逆転する。
「……」
未成熟な幼い顔、無防備に柔肌を密着させて体を預けることに危機感はないのか?眼下で静かな寝息を立てて胸を上下させている。きっと唇に噛みつかれるかもしれないなどとは露ほど思っていないだろう。
懐かれたのか…、内心鼻先で笑い、男は少女の知らぬ場で、その薔薇色の頬に口付けを落とした。
―――――――
『―――…ッ!!』
目の覚めた名前はソファーの上で飛び起きた。先に起床していたウェスカーはオールバックとサングラスを装備して仕事モードになっている。
身を起こした少女は彼のもとへと歩み寄った。
『…おはよう』
「おはよう」
ウェスカーは相変わらず。…だが昨日の件もあり、名前はそうはいかない。
『……』
どうというわけでもないのに唇を緩く結んでもじもじ俯いてしまう。
「朝食は適当に冷蔵庫から摘んで食べてくれ」
うんうん、と名前は頷いた。
『………いってらっしゃい』
彼に触れたくて動かそうとした手はしゅんとして拳を作る。
そんな少女にウェスカーは手を伸ばして甲で頬を撫でた。不意打ちに漏れた悲鳴が可愛らしい。行ってくると伝えれば、少女は頬をほんのり染めて、普段と違った俯き方を見せた。
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