星のおじさま | ナノ
20
『…………』
ジルが帰ったその夜、名前はベッドの中で思いふけっていた。
羨ましいほど仲良しのジェイクとシェリー。
それから…
――――――――
「もし好きな人とキスができたら、他の男(ひと)の事なんて考えられなくなるわよ」
――――――――
そう教えてくれたジルのこと。
彼女は恋愛価値観や性の知識について話してくれた。話を聞く内にそんなのありえない、と思いつつも少女は胸を踊らせ、まだ見ぬ沢山の夢を信じてみたくなっていった。
――ガチャンッ…
『!』
ドアが開いた、彼が帰ってきた。
少女は深夜だろうとベッドから飛び起きて主を迎える。
『おかえりなさい、!』
だが少しウェスカーの様子がおかしい…。
「………」
足元がフラついている。サングラスを外し、目頭を押さえてソファーに向かっている、少女は近づいて支えると酒の匂いがした。着いたとたんにドスンと勢いよく倒れ込む。
『ウェスカー…』
「すまんが後にしてくれ…」
心配で呼びかけても彼は疲れて寝ぼけているようで。
『……ウェスカー?』
一度話し掛けても反応はない。優しく揺らしてみてもぐったり、トントンと叩いてみてもぐっすりだ。
『ウェスカーってば…』
「………」
ダメ押しでもう一度呼んでみても、返ってくるのは寝息だけで。
『…………』
大人しく寝室へ戻ればよかったものを、少女はなぜかその場にもじもじと留まった。
なぜなら頭の片隅にはよからぬ考えがあったのだ。
散々立ち尽くしてウェスカーに歩み寄る。
少女は這い寄るようにソファーを跨ぎ、さらに彼の足もとを跨ぎ、クッションに膝をついて沈めた。
華奢な腰を大胆にも男の腰に重ねてゆっくりと下ろしていくも、よほど深く酔ったらしく起きる気配は微塵もない。
手をつきお腹から胸へと寝そべって心臓の真上へ耳を当ててみた。
いつまでこうしていたいと思えるほど、高めの体温と強い鼓動は少女の気持ちを落ち着かせる。
「………」
いつの間にか好きになっていた匂い。まじまじと見れて幸せな彼の顔は眠っているのに険しく見える。
金色の睫毛は思った以上に長くて多い。
『………』
でも一番欲しかったのは美味しそうな艶々の唇。
『ウェスカー…』
ゆっくり、ゆっくり近づいて少女は吐息を感じる場所まで来た。
――――――
「好きな人とキスをすれば、他の男(ひと)が見えなくなる。」
――――――
『……私のこと、好き…?』
独り言を呟いて、その唇を少女は口へ…
→ねぇ、起きて…(P21)
→どうか、起きませんように…(P22)
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