Straight To Video | ナノ

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ブルーライトを長時間浴びて疲労の溜まった目はショボショボ。掌の肉の丘は、顎を支えてきたせいで痕が残ってしまっていた。顎も痛いが、ジルはパソコンとの睨み合いを止めず、文字列を追う。

「何かわかったか?」

背後よりかかる声と、鍛え上げられた丸太のように太い片腕がどっしりデスクに手をついた。


「そうね…、警察には彼女のことらしい捜索願いの届け出はなし、それらしい事件もなし」

ジルは溜め息を吐いて凝り固まった肩を外へ反らし、首を鳴らすと、今度は一間置き、暗い声色で言葉を続けた。


「…でも一つ、気になる情報があったわ」

「?」

「ちょうどあなたが名前を助けたその日、××シティの○○病院から一人重度の精神病患者が脱走してちょっとした騒動になったらしいのね」


「…なるほど」


色々と話したそうに口を開きかけたクリスを制して、ジルはさらに続けて「それでね」と言う。


「彼女の身元がわかる可能性があるなら試しに調べてみようと思って。そしたらほら…」

「!?」


画面は一変、ジルが表示したファイルはB.O.W.に関するものだった。


「…どうして」

「偶然ね、見つけたの。過去にはアンブレラとの深い癒着もあり…この調子だと今も他の組織と絡んでるのは明白ね。一昔前のボロセキュリティだから、探せばもっと出てくるかも」

「……」

「見せてもらったけど、名前は会った時から検査義のような服を着ていたんでしょう?」

「あぁ…血の付いたな」


よく見る旧型、改良型、新型。
表は普通の病院を装い、裏では人体実験を繰り返しているというのか。

クリスは次々とファイルに目を通す。


「因みに患者は捕まったのか?」

「いいえ。逃走中よ」

「…病院が病院だからな。合致する点も多いが、仮に名前がその患者だとしよう。
けどあの格好じゃ正々堂々道は歩けないだろうし、交通機関も目立つから使わないとして…一日、二日かけてなら納得だが当日病院からここへ徒歩は距離が遠すぎる」


ジルは眉間に皺を寄せて目頭を摘まみ、「距離、ね…」と呟けば揉みほぐし、疲れを振り払うように短い溜め息を強めに吐いた。


「…私はなにも名前が病人って言いたかったわけじゃないのよ?」

「わかってるよ、でも俺達は名前が素性を明かしたがらない理由を知らない」


切りのない情報に嫌気が差したクリスはマウスから手を離した。


「…この病院、調べてみる価値ありそうだな」

二人の視線は画面を見つめる。


「……下手に警察や病院につれていかなくてよかったかもね」


ジルは呟いた。


「名前はどう…?」

「いい子だよ、まだ気が張ってる感じがしてたまに心配になるけど、ある程度警戒心は解いてくれたと思う」

「そう、ならよかった」


名前は事件とは全くの無関係なのか、狂気を隠せる利口な病人なのか、病院のB.O.W.の保持、売買、研究による人体実験を免れるために逃げ出してきたのか、最悪の事態は既に彼女自身はB.O.W.だったりして…。


「手っ取り早いのは本人が経緯を話してくれるに限るが…無理だな」

「逸そここに連れてくる?」

「彼女が嫌がるのが目に見えるよ。できれば多少強引でもそうしたいね、一人にしておくのはやっぱり不安だ。若い子相手に俺ができることには限度があるし、おっさんより話しやすいことも多いだろ?」

最善は全てが杞憂であること。二人はせかせかと仕事に戻る。


全60ページ

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