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順調に上がっていたエレベーターがある階で止まった。


『―――っ!?』

扉が開き一斉に入ってきたのは鬼の形相の研究員達、どの顔も名前は知っている。自分の担当者集団だ。まさか発信器だと思っていたものは全くの別物で体に残っていたのか、ともあれこれだけ揃われているとこの姿を見られるわけにはいかない。


『!』

窮地に立たされた名前をクラウザーは背の後ろに隠し、隅に追いやるようにして、自身を鬼達と遮る壁と成した。


「クソッ、あの女肝心な時に消えやがった……。一体どうやって発信器を取り除いたんだ?」

「自分の心配したらどうだよ。見つかんなきゃ管理不届きで首が吹っ飛ぶぜ」

「本当に物理的に首が飛ぶかもな」

勘は当たっていた、話題は間違いなく自分、やはりあれは発信器であっていたか、がしかしここで捕まったらどんな目に遭わされるかわからないと、名前は不安からクラウザーを見上げる。今度の睨みは大人しく引っ込んでろと語られた気がした。
身を震わせ、髪を簾のように垂らして顔を隠し、息の詰まる密室に閉じ込められて数分、ついに最上階に到着した。彼女の存在に気づくことのできなかった研究員達は真後ろにいる存在を見つけ出すために散る。目で合図され、クラウザーの背に張り付いてエレベーターを降りた名前を待っていたのは、もう二度と浴びることはないと諦めた日の光だった。アリの巣から這い出してみると地上でも一般企業を装い、よく見るエントランスのガラスの扉の向こうには事故に巻き込まれたあの日を彷彿とさせる多くの車が行きかう大通りがあった。


クラウザーはもう名前に見向きもしない、言わずもがな、黙認してくれている。

光に吸い込まれるよう扉に向かって手で人を掻き分け走る。上がらない脚を懸命に持ち上げてよろめく彼女は滑稽で、だがしかし踊るようでいて一歩一歩歓喜を踏み締め進む。階を変えようか悩んでいた一人の研究員の目に、白衣を着て外へ飛び出そうとする彼女の姿が留まる。
名前に聞こえるのは自分の呼吸と駆ける足音だけ、外の世界へ思いを馳せ、怒涛の叫びや呼び止める声も人々の声も自分という存在に関する音以外すべてが掻き消されている。
色が、音が、灰色に廃れた世界に蘇る活気ある鮮やかさ。
薄っぺらい洒落たガラス戸の向こうで待っている。
やかましいクラクションすら尊く感じられるのだ。

世界に浸る暇もなく、振り返るとガラス一枚分越しに悪魔の手下が迫差し迫る、ノープランとなった彼女の脚はどこへ行けばいいのやら、するとゆるゆると減速しやって来たタクシーが目の前を通過する。名前は駆け寄りドアを叩く。停車するとドアを開け飛び乗り行き先も告げず発進させた。


====Like a bad girl====


全60ページ

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