Straight To Video | ナノ
07
寝て起きれば検査を受けるを繰り返す生活が続く。名前はここで2週間以上過ごしていた。
「次の検査で結果がでなければ、もう一度あのウイルスを投与しよう」
水面下でさらなる段階へ移ろうとしていることなど、彼女が知る由もない。
男の言葉にまわりの研究員達も異議を唱えようとはせず、静かに頷く。相変わらずの検査結果とウイルスの性質上、これから身体的変異が起こる確率は極めて低いと判断したのだ。
―――――――――――――
『新薬…?』
「ええ」
そして入室後、彼らは早速名前に作り話を聞かせた。
話の筋書きはこうだ。事故により瀕死の状態でここへ運ばれてきた名前には既に手の施しようがなく、開発中の新薬を投与。彼女にとっては偶然適薬となったが経過を見る必要があり、そのため隔離されている…と。
疑いつつもここが病院であると思い続けていた名前は、そうだったんですねと都合良く自分なりに解釈し、彼らの言葉を信じてしまった。
こうなれば彼女の身に何が起きようが大抵のことは副作用で上手く言いくるめられる。さらにより自然体の彼女で、よりスムーズに実験を行い、治療だから仕方ないと大人しく事を受け入れてくれるというわけだ。
可哀想に。実験が成功する度に名前は定期的に薬を投与し続ける必要があると口実をつけられ、研究員達の探究心を満たすために地獄を見る羽目になるだろう。
「次回の検査で異常が見られなければ、投与を再開させようと思っています」
『わかりました。お願いします』
何も知らず、彼女は手間のかからない純粋な実験体になる。
思惑通りと誰もがそう思っていた。
またそうなるはずたった。
――――――
『ん…?』
長い検査を終えて部屋に戻った彼女は、今日を終わらせようとベッドに上がろうとした。だがそこで下に小さな紙が落ちていたのに気づき屈む。手で触れると質感は写真のよう。何やら文字が書いてある。
――――――苗字名前…
『私?……――――ッ!?!?』
表に返すと同時、彼女は持っていた写真を反射的に放り投げてしまった。悲鳴を飲んでしまうほどの衝撃。
言葉にするも悍ましい。
表を向いて落ちた写真に恐怖を感じながらも視線を向ける。
何度見返しても写っているのは皮膚の剥がれ落ちた人間。
震え縮こまった腕を伸ばし、拾い上げて見つめた。表面にも何か表記されていて、右下に黒字のペンで走り書きが記されている。死亡推定時刻…廃棄処分…
『………なに、これ……』
作り物しては妙にリアルで、第一作る理由がわからない。
同姓同名の人物がいてこうなった思ってしまえばそれでおしまいだ。しかしただならぬ胸のざわめきが治まることはなく、直感的にいかに否定してみせようとしても、名前はこれを自分以外ありえないと感じた。
彼女の生存本能は自身に警告する。
―――――事故…隔離…死体…書かれていた自分の名前…新薬…検査…施設…じゃあ今いるのは?
『逃げなきゃ…』
これを考えすぎだとは思わず、名前の頭の中では断片的に膨大な記憶が頭飛び交う、そして全てが理解できずとも瞬時に答えを導きだした。
――――何としてでも逃げ出さなければ、きっと自分は死んでしまう。
この病院には日頃から不信感を抱いていた。仮に今から起こそうとしている行動が杞憂だったとしても、行動せずにもしもの時を迎えるは御免だ。それに杞憂であってくれるならそれが一番、怒られるだけで済むならなんだっていい。
でも一体どうやって逃げよう…?
薬を投与するのは最短で明後日。とはいっても今日はもう外へ出れないし、自力でドアは開けられない。監視カメラもついている。下手に暴れれば、もっと厳しい環境で拘束されてしまう可能性も十分に考えられる……
『…!』
―――――――――監視カメラも付いている……?
====Lights Out====
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