さくら、さくら | ナノ





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第二部 8 望まぬ開花

 疾風の愛撫に淫されて。

 両手を寝台の頭板に結ばれ視界を奪われたままのさくらは、はだけた着物から白い乳房を零し、足を淫らに折り曲げて達した余韻に躰を震わせる。
 疾風はその白い肌の上を両手で足の先から上へとなぞるように撫で、双方の乳房を持ち上げるようにゆっくりと揉みあげた。
「ああぁ…」
 敏感になっている躰は今再びの愛撫に震え、さくらの咽からはせつない声が漏れる。
 疾風は胸の愛撫を続けながら、喘いで半開きになっているさくらの唇にくちづけた。
「ん…っ」
 舌を絡めて深く深く疾風はさくらの口内を蹂躙する。
 視界を奪われたままのさくらは執拗に与え続けられる甘い刺激とくちづけに感覚が集まりすぎて、朦朧とした意識の中でただただ疾風のなすがままに身を任せる。

 さくらと呼んでくれる声も、愛していると囁く言葉もないのに、
 自分を捕らえ何もかもを奪った疾風が憎いのに、
 なぜ、この躰は疾風を受け入れてしまうのだろう。
 疾風の愛撫に甘い声をあげてしまうのだろう。

「――ん…あぁぁ…っ!!」
 疾風の指が再び秘唇の中に埋まると、一度頂を見たさくらの躰はたったそれだけで達してしまった。両足を引き攣らせびくびくと震えるさくらを抱きしめた疾風は、膝を使ってさくらの秘所に刺激を与え続けながら唇を奪う。
「ん……、んっ……」
「――は…っ、は……、」
 今や素直に反応するさくらの躰に疾風も夢中になり、さくらの唇を激しく貪り首筋、肩、胸へと荒い唇を下ろしていく。
 勃ちあがる熟れた果実にしゃぶりつき、甘噛みし、舌先を転がして。
 執拗に舐めまわされた頂は桜色を通り越した朱色に変わり、疾風の唾液によって妖しい光を放っている。ぷるぷると震える其れがあまりにも妖艶だから、疾風はまたしゃぶりついて舐めまわす。
「やっ、や……っ、あ、……っん、あぁん……っ」
 さくらがあげる嬌声に煽られて指がまた秘所を弄る。

 そんな行為を何度か繰り返し、指と舌だけで何度も頂に連れて行かれるうちに、さくらの躰は恐怖を忘れた。
 触れられることを拒み、強張り粟立っていた肌は愛撫に慣らされ熟し、熱と汗を迸らせて与えられる刺激と感覚を歓迎してしまう。
「ずいぶんと素直になったものだな…」
「そん…な……こと…――」
 ない、と心は否定を叫び続けているのに躰は真逆を求めてしまっていることにさくらはただただ絶望する。
「淫らなことだ…。だが、それでよい…。恐怖が去り快楽を覚えたそなたは…」
 美しい――と、疾風は手のひらに包んだ乳房にくちづけながら、左手だけでさくらの視界を覆っていた腰布を解いた。
「……っ!」
 顔の半分を隠していた腰布の下から涙に濡れたさくらが現れたとき、そのあまりにもの儚さと美しさに疾風は息を呑んだ。この目を腰布で覆った時とは違う、そこには何度も快楽の波を漂った女の表情がある。
 心傷に囚われ恐怖に泣き叫んでいた娘をこのように艶やかな女に変えたのは、他の誰でもなく自分であることに恍惚感がこみ上げ、疾風は我を忘れたようにさくらの唇に貪りついた。
「ん…、ん…んん…っ」
 息を吸う間も与えてもらえない深く激しいくちづけにさくらは苦しみ喘ぐが、疾風は夢中に貪り続ける。両手でさくらの頬を挟み、何度も何度も角度を変えて。
「……て、…は…やて…!」
 あまりの苦しさにさくらは縛られた両手を激しく振りほどこうとしながら塞がれた唇で疾風を呼んだ。
「はやて…!」
 触れ合うさくらの口から翔流ではない自分の名前が零れたことで、疾風は一気に昂ぶり猛った。求められたわけでもなく、愛しい相手を呼んだわけでもない。
 名を呼ばれただけ。
 たったそれだけで。
 触れ合う唇を放せないまま昂ぶりをさくらの秘所に押し当てて中におし挿る。
「――あっ、ああっ、ああぁーっ!!」
 前の夜に一度貫き、指をいくら挿入しようとも、猛った疾風を受け入れるにはさくらの其処はまだ狭い。奥に進めば進むほど締め付けがきつくなり、ピタリと嵌る一体感に心も猛物も酔わされ疾風自身が持たなくなりそうですぐに動くことができない。
 さくらの最奥まで挿ったところで疾風は止まり、繋がったまま乳房と頂の感触でしばしの間遊ぶ。
「も、……もう、ゆるして……、お、ねが……あんっ……!」
 これまでにさんざんイかされ、快楽の波間を漂い続けているさくらは、中に疾風の存在があるだけで感じてしまう淫らな躰を呪いながらも、やがて与えられる刺激を待ってしまう。
「もう、これはいらぬな…」
 さくらの躰は恐怖を払拭し、完全に疾風に開いたのだから。
「あ…」
 腕を縛っていた帯が疾風の手によってやっと解かれると、自由になった両手はどこへ行けばいいのか宙をさまよった。
 だが、さくらの中の疾風がゆっくりと動きはじめると、その手は自然と疾風の背中に回された。押し返すのではなく、回されたのだ。
「………!」
 それはさくらの無意識がこれからの行為を受け入れようとしている証。
 そう思えばまた疾風の昂ぶりがさらに増して、自然と律動が激しくなっていく。
「やっ、や…っ、あ…っん、あぁん…っ――あぁ…、は……ん…っ」
 疾風の動きに合わせて喘ぐさくらの甘声は高く高く。
 疾風は自身をぎりぎりまで引き抜いては奥を突き上げる抽送を繰り返し、嬌声をあげ続けるさくらの声はだんだん掠れていく。
「もう……、あぁあぁ……」
 限界が近づき躰をしならせ天を見つめるさくらの視界が揺れ、やがて焦点は定まらなくなりその時を迎えると、疾風はさくらを強く抱き寄せ激しくくちづけながら迸らせたのだ。

  ◇

 寝台にうつ伏せて、さくらは肩を震わせる。
(翔流、翔流、翔流……!)
 疾風によってさんざん快楽を与えられあれほど何度も昇りつめておいて、それでも心は翔流に手を伸ばしている。
 大学の友達が言っていた。
 男の人は好きじゃない女の人とも欲情だけでえっちができる、と。
 だがそれは男だけじゃない。自分もそうだ。しかも、憎くて憎くて仕方がない疾風に二度も貫かれ、二度目の今日は間違いなく憎い疾風に与えられる快楽を求めてしまったのだ。

 ――どうして……っ!!

 自分の躰が呪わしい。
 消えてなくなってしまいたい。
「……この窓は開かないように術をかけておこう」
 泣くさくらの気配を背中に感じながら真上に昇った月を見上げていた疾風が言った。
「そなたがまた、身を投げては困るからな」
 そんなこと絶対にしない…、とうつ伏せたままのさくらがつぶやく。
 疾風がさくらの言葉に応えずに佇んでいると、さくらはやっと顔をあげて疾風を見た。泣きはらした目が痛々しいが、強い光をその瞳の中に宿して。
「私が死んだら、また翔流が苦しむから。苦しんで自分を責めて、心に消えない疵を残すから…。だから、どんなに消えてなくなってしまいたくても私は絶対に自害なんてしない…!」
「……っ」
 憎しみがこもった強い目。
 楓にはなかった、これはさくらの強さなのだろう。
 だが、それが美しいと疾風は思う。
「そうか。ならば俺は憂うことなくそなたを抱けるな」
 これからもずっと――、と最後にさくらに絶望を与えて疾風は塔の部屋を後にする。
 疾風が扉を閉めた瞬間に聴こえたのはさくらの嗚咽だ。

 だが今、閉じた扉の前に佇む疾風もさくらの言葉に絶望を与えられた。
「翔流が苦しむから…か」
 翔流のために、死など選ばずあえて疾風に下るのだと。
 悪魔に凌辱されながら、翔流のために生きると。
 分かっている。
 心は決して手に入らない。
 それが、咎を背負ったものへの重い報いだ。
 乾いた笑いが込み上げたが、突如、疾風の胸に激しい痛みが走り、それは湿った重たい咳に変わった。口を押えた手のひらを広げてみると、鮮やかな真紅に染まっていた。
「………いつまでもつだろうか…」
 ぽつりとつぶやいて、疾風はゆっくりと螺旋の階段を下っていった。







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