恐怖に両目を見開いてさくらはふるふると首を振った。 だが、疾風はさくらの上に体躯を重ね、脚の間に己の膝を割り込んだ体勢から容赦なく胸の膨らみを掴んだ。 素肌を弄られる未だに覚えているあの時のおぞましい感触が、さくらを恐怖の底に引きずり込む。 「いやぁ!触らないで…!」 激しく身を引いて触れる手を拒絶するさくらは疾風を忌むように睨みつけた。 「まるで、穢れを見るような目だな」 だが疾風の手は、全身で拒絶をするさくらをわざと煽るかのように胸の膨らみをたっぷりと弄んでから下へ下へと滑っていく。 「いやあぁぁ!!やめて!!いやいやいや!」 さくらはできる限りの抵抗をして暴れるが、疾風はいとも簡単にさくらの躰を押さえつける。さくらが拒めば拒むほど、疾風の手は強張り粟立つ肌を撫でまわし、そして、 「俺の手で穢れるのがそんなにいやか。ならば、いやとも感じられなくなるほど惜しみなく穢してやろう」 美しい顔立ちとは真逆の恐ろしい言葉を吐いて、疾風の指がいきなりさくらの内腿にすべりこみ秘唇を割った。 「あぁあーーっ!」 抵抗も拒絶も聞き入れない指が秘唇の中に侵入し乾いたその中で蠢く。はじめは内壁をなぞるようにそっと曖昧に。 「いやぁぁ!!」 指にとろりとしたものが絡んでくれば、その蜜をもっと掻きだすかのように奥へ奥へ。 「いやいやいやぁーー」 覚えている、この感覚。 生温かなものに無抵抗の中をさんざんかき回され、頭が痺れ体に電流が突き抜けたあの疼き。 「いやいや!やめて、やめて、やめて!!」 嫌悪する心とは裏腹に躰の芯から突き上げてくる疼きに抗う術がなく、与えられる刺激の強さに耐えられずにさくらは首を激しく振って叫んだ。 「いやぁ……!!」 だがそんな刺激は序の口だったということを、次の瞬間、さくらは思い知ることになった。 「まずは俺の存在をそなたに刻み付けてやらねばな」 ――あの嵐の夜のように! 不意に腰を掴まれ、躰を脳髄まで貫かれたような鋭い痛みに襲われたさくらは悲鳴をあげた。 「あああぁぁぁーーーっ!」 稲妻に躰を引き裂かれているかのように、さくらを貫いたものがぎりぎりと躰を押し開いていく。 「いやぁぁぁ!」 さくらは狂ったように泣き叫び、自分をこじ開けようとする異の物を全身で拒絶するが、疾風はさくらの頭を押さえつけさらに奥へ奥へと己を進めていった。 「や…めて!やめてーーーっ」 激痛、恐怖、嫌悪感そのすべてがさくらを苛み、苦しくて呼吸ができない。躰だけではない、さくらの何もかもを圧迫している自分の中の疾風の存在、その事実にさくらは絶望した。愛しい翔流さえ拒んだ躰が、なぜ、いともたやすく疾風を受け入れるのだろうか。 ――酷い……!! 自分の躰が呪わしい。 どうして、どうして、どうして!! 「そなた、もしや…」 交わるところから滴る鮮血は、今、この瞬間までさくらが生娘であったことの証。 「なぜだ…」 足の傷以外、賊から与えられた他の疵はないと翔流から報告は受けたが、ならば、翔流はどうなのだ。この娘を妻にするといい、これほどの所有印まで刻んでおきながら半年の間共に暮らしていて一度も交わらなかったのか。 「想いが深いゆえに、触れられなかったか…」 翔流らしいといえばそれ以外の何ものでもない。どこまでも誠実で愛情深い弟は、楓にも一度も触れていなかったのだ。 「ふ…、はは…、くくく」 疾風は喉奥で笑った。 「だが、俺は違う――」 愛しいからこそ、その全てを奪う。 あの嵐の夜に、己がそういう男であることを疾風は思い知ったのだ。翔流が大切にしていた楓の純潔をいとも簡単に奪い蹂躙したのは疾風なのだから。 「ならばこれはそなたの運命。前の世も今世でも、そなたは翔流を恋慕いながら俺に奪われるのだ」 「いや…、やめて…っ」 さくらの中に打ち込んだのは楔だ。もう、この場所から決して動けぬよう。 「これは不要……!」 楔を打ち込んだまま、疾風はさくらの胸に咲く花に手をかざした。 さくらは胸元がピリピリと熱くなるのを感じた。目には見えないが、疾風の逆行術で翔流にもらった愛しい朱い花が消えていくのが分かる。実際、朱色はみるみるうちに色を薄くしていた。 「……いや、消さないで…っ、お願い、やめて!」 あの日の翔流の想いそのものをなかったことにされてしまうようで、さくらは必死に抗った。 だが。 「その願いは聞けぬな」 さくらの躰から翔流の痕はきれいに消え去ってしまい、そして、その同じ場所に疾風が己の印を刻み付けた。 「あぁ…!」 びりっとした痛みが走る。 「その痛みはそなたが俺のものであるという印」 翔流からもらった愛しい言葉と同じことを、凌辱の場で疾風が囁く。激しい怒りと嫌悪がこみあげたさくらは、全霊をこめて叫んだ。 「ちがう…!!あなたのものなんかじゃない!!」 「だが、そなたの躰はこうして俺に開かれることを待っていた。賊も翔流も、そなたと交わろうとすればいくらでもできたはずだ。だがそなたは生娘のまま俺の元へと還った。そなたが俺のものになる運命であるからだ」 「ちがう!私はあなたのものになんてならない!!絶対にならないわ…!」 「そなたの意志など無関係…」 さくらの腰を掴み、疾風はゆっくりと動きはじめた。 「あああぁぁ……っ」 「そなたはもう、俺に捕まったのだ…」 疾風はゆらりゆらり抽送を繰り返しながら翔流の印をすべて消し去ったさくらの白い柔肌にいくつもの新たな朱の花を咲かせていく。 「あぁ…、あぁぁ――!」 曖昧に与えられる刺激はさくらの躰に甘い痺れを教えようとする。だが、頭の中が熱く痺れ荒くなる息で喘ぎながらも、さくらの理性はまだ翔流にしがみつき、翔流が愛してくれた痕が消された怒りと寂しさに涙を零す。 ぽろぽろと大粒の雫がさくらの頬を伝い寝具の上に落ちていった。 「美しい涙だ…。だが―――」 疾風はそれまでとは一変し、さくらの中の己を一気に突き上げた。 「あぁぁ――!いやぁぁ…!」 「――認めることだ。こんなにも深く俺を呑みこんでいることをな!」 「い…やぁ!あぁぁ!」 痛くて苦しくてさくらは苦悶の涙を流すが、全身で拒絶するさくらは中の疾風をきつく締め付け、凶暴な昂ぶりを煽るだけ。 そしてどれだけ拒絶しようとも、躰は与えられる刺激に従順に応え疾風を潤滑に受け入れる蜜液を溢れさせる。 「そなたの躰は俺に開いているのだ…!」 「違う…わ…っ!」 「違うものか!」 疾風は膣壁をえぐるように激しい抽送を繰り返しながらピンとそそり勃った頂で舌を転がした。 「あぁ…、あ…」 今はもう白い喉を反らし虚ろな目を空に向け、ただ疾風に揺さぶられるままになっているさくらは、 「かけ…る…っ、」 一滴の涙を零してその名を唇に乗せた。 「かける…。かける…!翔流…!」 「俺に貫かれながら、その名を呼ぶか…」 それは、躰は奪われても心は翔流の傍にしかないとの意志。 「だが、そなたの奥深くに居るのは翔流ではなく俺だ。俺を咥えたそなたの其処は歓喜に震えているぞ」 疾風はそんなさくらの抵抗も踏みにじる。 「そんなこと…、ない…!絶対に…な…ぃ!」 「強情な娘だ…!」 意志も理性も焼切ってしまうほどの突き上げと、弓なりに反った躰への執拗な愛撫は、さくらのささやかな抵抗など簡単に一蹴してしまう。 「あ…っ、あ…、あ…っ」 疾風に奥を突かれるたびに望まない声を喘げてしまうさくらは、もう抵抗する力も失い疾風の想いのままに揺さぶられるだけだ。 「そなたはもう俺に奪われたのだ。翔流の妻にはなれまい。いや、翔流には逢わせぬ。囚われの身となりその命尽きるまで俺だけに愛されればよい…!」 さくらを揺らしながら疾風はさらに絶望の言葉を吐く。 「んぁ…、あぁ…、あ……っ」 翔流。 翔流――。 翔流のために、もっと料理や裁縫をしてあげたかった。 翔流と一緒に桜を見に行きたかった。 翔流のお嫁さんになりたかった。 もっともっと、翔流と一緒にいたかった。 翔流に……触れて欲しかった。 翔流と、ひとつに繋がり合いたかった…!! 遠くなる意識の中に浮かんで消えたのは、秋の日に翔流が見せてくれたあきづきの水風船だった。綺麗に揺れて、儚く壊れたあきづきの――。 「俺のものとなれ…!」 止まない嵐が窓を打ち、別の嵐がさくらを激しく打ち付ける。さくらの頭上で雷鳴が轟き、さくらの中に稲妻が駆け抜けていった。 「知れ…!刻むのだ…!そなたの身に俺を……!」 「あぁぁ、あ、あ――……」 心はこんなにも拒絶しているのに躰は天へと支配されようとしている。 「あぁ……――!いやあぁぁーーっ!」 意志に反するその感覚に屈っしまいと、さくらは歯を食いしばり、掴んだ疾風の背中を思い切り爪で引き裂いた。 「…っ」 さくらの中の疾風が迸った時、稲妻が突き抜け天が割れた。 「か…け…、る……!」 疾風の迸りを残滓まで呑みこみながらも、心は世界で一番愛しい名を呼んでさくらは意識を手放した。 |