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title A to Z 14/26



誰を想えば良いのか分からなくなっていた
大切なものが増えすぎて
どれを失っても痛くて苦しくて

あぁきっとこれは罰なのだろう

ひとつしか選べないのに全てを守ろうとした

愚かな 自分への








苦しくて目を開ける。いつも通りの天井と、いつも通りの汗だくの身体と、いつも通りの濡れた目。荒れた呼吸にももう慣れた。日に日に濃くなる隈と、痩けていく頬に流石に気づかれたらしく、色んな人に心配されている。
申し訳なくて仕方ない。だってこれは罰なのだから。
選択から目を背けた自分への罰。
「・・・今日はオズか」
大切だと思っている誰かが大切だと思っている誰かに殺される夢。
昨日はブレイクがオズに殺された。一昨日はアリスがブレイクに。今日はオズがヴィンセントに。
分かっているんだ、このまま逃げ続けても、いつか答えをださなければいけない日が来ることは。
でも、誰も選べなくて。

アリスに訊かれたたった一言がこの悪夢の引き金になった。



『お前が一番大切だと思うのは誰なんだ?』



身体が頭が心が、全て凍りついた気がした。
どうしてそんなことを訊くんだ、とか、どうだって良いだろう、とか、都合の良い返答ができれば良かったのに、それすらもできなくて。

ショックだった。
昔は、「オズだ」と即答できたのに。
迷ってしまった。
オズが大切ではなくなったわけではない。むしろ、その逆。
同じくらい大切なひとたちができてしまった。
そのことがショックで、どうすれば良いか分からなくなって。

「・・・もう」



もういっそ、俺が殺される夢なら良いのに―――









そう思ったその日の晩、ギルバートは大切なひとたちに、殺される夢を見た。



その日から三日三晩、ギルバートは目を覚まさなかった。








「―――ル、ギル!ギル!!」
名を呼ぶ声に重たい瞼を押し上げる。久々に目に入った光が眩しくて、目の前にある顔を上手く認識できなかった。
「・・・・・・オズ?」
何度か瞬きを繰り返し、ようやく目が慣れたところでその顔が主のものであることに気づく。
「良かった起きた・・・もうこのまま起きないんじゃないかって・・・」
全身の力を抜いてもたれかかってくるオズを支えながら、ギルバートは上半身を起こした。
「ワカメ!!起きたのか!?」
凄まじい音を立ててドアが開く。むしろ壊れたんじゃないだろうか。
お構いなしに駆け寄ってくるのはアリス。悪夢の元凶だが、その眉が珍しく下がっているのを見てギルバートは首を傾げた。
「バカウサギ?」
先程オズが座っていたベッド脇の椅子に腰掛けると、申し訳なさそうな顔をしてアリスは切り出した。
「私がお前にあの質問をしてからお前の様子がおかしくなって・・・お前が起きなかったのも、顔色が悪くなって痩せていったのも、全部私の所為だろう?」
否定はできない。が、100%そうでもないと言えばそうでもない。
「・・・いや、お前の所為じゃない・・・選べなかった俺への罰だ」
ぽつりと零すように言った言葉に、今度はアリスが首を傾げた。
「選ぶ?」
「は?」
つられてギルバートも疑問符を飛ばす。
「確かに私は『お前が一番大切なのは誰だ?』と訊いたが・・・」
その後の言葉を聞いて、ギルバートは凍りついた何かが溶けていく気がした。



「大切な者は、ひとりじゃなくても良いんだぞ?」



例えば私なら、オズとアヴィスの意思と、オズワルドと・・・あとはお前だ。
最後はとても小さな声で、ふいっとそっぽを向いて呟かれたけれど、ギルバートの耳にはしっかりと届いた。
「オ、オズもそうだろう!?」
照れ隠しにかオズにも振ると、ただ寄りかかっていた身体を少し起こして、背中に腕を回してきた。
「勿論!俺はギルとアリスとエイダと、オスカー叔父さんにシャロンちゃんにブレイク、リーオも大切な友達だし、あとエリオットも。ほら、こんなにたくさんいるよ」
呆然と交互にオズとアリスを見る。
「選べるわけないよ。大切なんだから」
「そうだ。私だって誰かひとりを選べと言われたら困る」

じゃあ、たくさんいても良いのだろうか?

ひとりじゃなくても、選べなくても良いのだろうか?

「“一番”は“ひとり”じゃないよ。で、ギルの“一番”大切なひとは誰?」

分かっているといった口ぶりだが、きっと言葉にしなければいけないのだろう。
いや、これは許しだ。
言葉に出しても良いという、示唆。



「・・・俺の、俺の大切なひと、は・・・」



ぽたりとシーツにシミを作る雫。
嗚咽が漏れて、上手く喋れないけれど、それでも幼子のように拙く呟く。
「オズ、と、ヴィンセントと、バカウサギ、とッ、」
ブレイク、シャロン、オスカー様、エイダ様、エリオット、リーオ。
「うん、たくさんいるね。それで良いんだよ」
あやすように背中をぽんぽんと撫でられ、涙が止まらなくなる。
「お前はそんなことも知らなかったのか。全く・・・教えてやったこのアリス様に感謝しろ!」
「ッ・・・」
「ふん、泣き虫ワカメはこうしてやる!」
言うやいなや、ベッドによじ登って後ろから首に腕を回される。

少し苦しかったが、身体だけではない温かさにまた涙が溢れた。






「ギルバート君?大丈夫ですカ・・・って寝ちゃってますネ」
「あらあら・・・でも一度起きたようですわね、先程話し声が聞こえましたもの」
「ですネェ・・・しっかし、仲が良いことで」
「ふふッ。このまま寝かせて差し上げましょう」
「エエ。起きたらしっかり食べさせないといけませんネ」
「では料理人に言っておきませんと」
「取り敢えず出ましょうカ」
「そうですわね」
幼子のように泣くギルバートを2人であやして、結局そのまま3人とも眠ってしまった。
ギルバートを真ん中にして、川の字には歪であるけれど、仲良く互いの手を握ってすやすやと眠っている。
久しぶりの安眠は、夢すらも見ずただ幸せに包まれていた。






Nightmare
覚めれば、幸せはそこに







 


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