その家には魔女がいた。
　古い頑丈な造りの、一見廃墟のような家は木々に囲まれ、どっしりとした面構えが風格を漂わせ、年月を感じさせる造りが貫禄を放っていた。
　門には時庭(ときにわ)の古びた表札。瓦には苔が生え、まさに深緑という言葉がぴったりだった。仄かに空気さえも緑色に染まっているようだった。
　固く踏み固められた土にクラゲのような青白い飛び石。昔の歪んだガラスがはめ込まれた、妙に滑りの良い戸を開け、ひんやりとした空気を感じながら、奥へ進んだ。長年の使用により黒光りしている床板は軋み、歩むたびにぎくりとさせた。
　長い廊下を進み、一番奥の部屋に魔女はいる。
　薄暗い部屋の真ん中に揺り椅子を置き、外を眺めている。私に気付くと、

「おいで、渦」

　と、掠れた低い声で私を呼び、枯れ枝を水に浸したような手で頭を撫でた。

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