時計塔

 七色のネオンが輝き、人々がざわめきながら行き交う通りを少し入ったところに、小さな時計塔がある。
 オレンジ色の光に照らされ、薄っすらと姿を見せる時計塔。ビルに挟まれ、街に忘れ去られたような不思議な場所。そこだけは外界と隔離されたようにゆっくりとした時が流れ、ざわめきも空耳のように微かだった。
 ふと、どこからか一匹の黒猫が現れ、塔の傍にあるベンチに腰を下ろした。
 光を映す漆黒の毛皮、薄闇に光を放つ緑金色の瞳、作り物のように美しい猫だった。
 見上げた時計は丁度零時を指し、今日が昨日に変わった直後だった。
 その猫は落ち着かなげに尾の先を動かしては時計を見上げ、人が少なくなった通りを見つめ、視線を落とす。何かを待っているようだった。
 その時、一粒の雨が猫の髭を掠めた。ネオンを無限に吸い込む夜空からは次から次へと雫が落ち、静かな音を奏でながら街を雨色に染めようとしていた。
 少し経ち時計の長針が二つ進んだ頃、水を走る小さな足音を立てながら一匹の猫が通りの角から姿を現した。
 黒猫より一回り大きい銀灰色の猫が小走りに黒猫に走り寄る。黒猫は一つ小さな音を立て身軽にベンチから降りると銀灰色の猫の傍に寄り、愛しそうに唸るとその狭い額を顎に擦り付ける。銀灰色の猫は黒猫の顔を軽く舐めると謝るように短く一鳴きした。
 二匹の猫は雨の中寄り添うように淡い光に浮かぶ路の奥に消えていった。




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