畢竟
風が吹いていた。
白いカーテンは緩く付けられたプリーツをなぞる様に揺れ、微かに、春が萌える匂いを、六面白く塗り固められた部屋に満たそうとしていた。
ねぇ、学文路(かむろ)、どうして傷付けたの?
ねぇ、何が苦しかったの?
風に撫でられ、ふわり、絹糸の髪が程よく白い、病的では無い肌を掠めては揺れていた。
そんなの、
わからないよね。
ただ苦しかったんだよね。
言い様のない、
吐き出し様のない、
止めどもない、
苦しみが。
溢れ返っていたんだよね。
見上げたるは、白い天井。
聞こえたるは、憐れみの天聲。
ねぇ、学文路(かむろ)。
ボクはね。思ったんだよ。
酷い事言ってるんだって。
ボクだって、何の意味も無く、軽く、当たり前の様に言うよ。
それは、とても痛いんだよ。
寝返りの衣擦れは、細やかく、刃物の様に鋭い。
軋むスプリング。
足音は消えている。
春の匂いが、一層強まった。拡がって行く外界。
「野暮ったい事、言いなさんな」
君はとても優しい。
こんなボクを、助けたいの?
君の方が何倍も苦しんでいるのにね。
ごめんね。
ごめんね。
ボクは、何もしてあげられないよ。
この疵を消す事も。
満足に、何も、何も、出来やしないんだ。
腰掛けたは、窓枠。
見上げるは、寝台。
「赦しもしないし、助けもしない」
見上げたるは、青い空。
足着けたるは、紅い芝。
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