バニシングツイン
ある赤ん坊の話をしよう。
その日うちは一族に新たな命が生まれた。男女の双子で、先に生まれた女児は健康そのものだったが、数時間後に生まれた男児は息をすることもなく身体は冷たくなっていく一方で、間もなく死を宣告された。どうやら心臓に重度の疾患があり、胎内から出てしまっては生きられない体だったらしい。皆が悲しむ中、看護師の一人が奇妙なことに気が付いた。
男児の亡骸の瞼の隙間から、血が滲み出ていたのだ。
母体にこれ以上の負担はかけられないからと、亡骸の母親には黙ったまま父親の許しを得て遺体を調べ――そして戦慄することになる。
男児には眼が無かった。眼窩に煮凝りのような血溜まりがあるだけで、本来あるはずの眼球が両目ともなかったのだ。奇形なら奇形とわかる形をしているはずだが、これは誰が見ても『元々あった眼を抉り出した』ように見えた。
調べていた男の脳裏に、この亡骸の双子の姉になるはずだった女児がふっと浮かんだ。何を馬鹿な、と頭(かぶり)を振るが、他の者と顔を合わせた瞬間、ここにいる全員が同じことを考えていたのだと悟った。
そして思っていてもあえて口に出さなかった言葉を、一人が重々しく掠れた声で発した。
「眼を……奪って生まれてきたって言うのか?」
それは、言ってはならない一言だった。
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