※リクエスト小説「冬の暮」と繋がっています


玄関へ入ると靴箱の側に人一人分ほどの高さのもみの木が立っていた
天辺には言わずもがな星が飾られ、この屋敷には似つかわしくない可愛らしい装飾が施されている
これが甲冑の隣にあるのだから非常に違和感がある
黒服に案内され、目の前の大部屋の襖が開けられると、わっと中の騒がしさが広がった


昔馴染みの青年はもっとも奥の上座に座って楽しそうにしていた
驚いたのはその頭に赤い三角棒が乗せられていることだ
促されるまま、幽遠寺の元へ歩む


「頭、いらっしゃいました」

「お」


青年の顔にぱっと花が咲いた
丁度彼の一番近くの席はコップが伏せられ、空いていた


「此方へお掛けください。直ぐにお料理をお持ちします」

「会いたかったぜ、姉さん」

「すみません、遅くなってしまって」

「いや、来てくれただけで嬉しいよ。あれ、アカギのやつは?」

「来てません」

「なんでぇ、来りゃ良かったのに」

「あら、連れてきて良かったのですか?」

「ククッ、嘘だよ、姉さんとの大事な時間取られてたまるかってんだ」


からからと幽遠寺は屈託なく笑っている
いたずらっぽいところも彼の魅力だ
他愛ない話をしていると瓶ビールを片手に黒服がやって来たのでグラスに酌をしてもらった


「幽遠寺さん、その帽子は」

「ああ、クリスマスだろ? やるんならぱーっとやらねえとな」


よく見ると床の間にと小さなクリスマスツリーが置いてあり、部屋のあちこちが華やかに飾り立てられていた
幽遠寺とその部下が総出で飾りをしているところを想像すると可笑しかった


「息災か?」

「ええ、相変わらずの不摂生ですが不思議と元気ですよ」

「そいつァ重畳」


照り焼きのチキンやターキー、パン、チーズなどが並ぶ中にすき焼きの鍋もある
割り箸を二つにして生春巻を早速頂戴する


「あっそれ旨いぜ。アイツの手作りなんだ」


チリソースの独特の酸味が口の中に広がった
海老がぷりぷりしていて確かに旨い
幽遠寺の見る方向で黒服の青年が気恥ずかしそうにしている
幽遠寺の率いる組織は今まで出会ったどの任侠よりも家族の様で暖かい
一重に彼の人柄だろう


「飯が終わったらさ、久しぶりに打とうよ」

「せっかちですねえ」

「へへ」

「貴方はいつまでも変わらないで居てくださる」


幼少から続く彼の陽気な部分は救いだ
狐がどんなに遠くとも一方的に消えても、会えば昔のまま有りの侭を受け入れてくれる
幽遠寺枡視の器の大きさだ
相手に悟らせない優しさが彼にはある
だから何時までも可愛がってしまう

グラスを取るのに伸ばした手を、不意にすいと掬い上げられた
指先を幽遠寺の親指が擽るように撫でる


「行く宛が無くなったら何時でも戻ってきていいからな」


細められた幽遠寺の瞳には人を眩惑する魔力があった
おや、いつの間やら只の子供では無くなって居たらしい






書いていた小説がたまたま幽遠寺さんが出てくる内容だったのですが、アンケート結果を見て思わぬ需要に驚いています。


拍手を有難うございました!
感謝しかありません…
これからも日々精進致します


まだまだこちらのナノでは不馴れなことが多いので、リンク切れ等不備がありましたらご報告ください。

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