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「さて、腹拵えも終えたところで、今後の行動プランについて決めよう」


店を出て、宿に戻った後、シュエは露店で購入した果物を齧りながら《人魚》捜索方針について切り出した。

きっちりデザートまで食べる意味は、当然無い。これは完全に気分の問題だ。しかし、あれだけ散財した後では果物一つ咎める気にもなれないと、ヤーは何も言わず、寝具に腰掛けたままシュエを見据える。


「私が耳にした《人魚》に纏わる噂……何れも等しく眉唾物だが、そも《人魚》の存在自体が不明瞭なのだ。場所がはっきりしているものから虱潰しに行くとしよう」


片手に果物を持ったまま、シュエが指を三本立てる。

九龍内に於ける《人魚》に纏わる説話は万々千々。その中から、より具体的且つ所在が明らかな物を絞り込んだ結果、最も見込みのあるのがこの三箇所だとシュエは言う。


「《人魚》を展示しているという見世物小屋・怪物園(かいぶつえん)、不老の女帝が君臨するという九龍最大の売春窟・不夜楼閣(ふやろうかく)、そして、神秘の不朽体があるという新興宗教・天廻教(てんかいきょう)……この三つが有力だ」

「揃いも揃ってろくでもなさそうな場所だな」

「最初に行くなら天廻教の大教殿がオススメだ。此処から一番近い以上の理由は無いのだがね」

「その天廻教ってのは、どんな宗教なんだ」

「死と再生を司る、己の尾を噛む蛇……猪竜(ズーロン)を奉り、生命に安寧をうんちゃらという話だったな」

「蛇なのか」

「しかしこの猪竜が、どうも半人半魚のようなビジュアルをしているらしい。蛇と称されているのは教義の都合か解釈の問題かもしれない。そして何より、注目すべきはその猪竜の性能の方だ」


果物の芯まで咀嚼し、指に付着した果汁を舐め取りながら、シュエの顔は何処か物足りなさを残している。

彼には満腹中枢というものが搭載されていないので、幾ら食べたところで真に満たされることはない。全て気持ちの問題だ。しかし、デザートまで食べておきながら何が不服なのだとヤーが眉を顰めると、シュエはそう睨んでくれるなと肩を竦めた。

消費分のエネルギーは補給出来た。気持ち的にも満たされている。それでも足りない顔をしてみせたのは天廻教にあるのだと、シュエは唇を舐める。


「噂では、猪竜の血には傷や病を癒す力があり、天廻教はこれを血豆腐にして信者達に振舞っているらしい。これがまた非常に美味且つ効果覿面という話だ」

「……その血豆腐が食いたいだけじゃないよな、お前」

「興味はある。出来れば火鍋で頂きたいところだ」

「兵器のくせにグルメな奴だ」


獣の血で作った豆腐は、古来より皇華国で親しまれている。新鮮な家畜の血を蒸して固め、スープや煮込み料理、鍋物に用いる。主に豚の血が使われるが、山羊や鶏など様々な獣の血豆腐が作られている。ヤーも故郷にいた頃は、狩猟した獣の血豆腐をよく口にしていた。

しかし、神仏の類の血を喰らうというのは些か抵抗がある。罰が当たらないかとか、人が口にして本当に大丈夫なのかとか、匂いや味はどうなのかとか。

シュエが味見係をやるので凡その問題は心配いらないが、何はともあれ、その不朽体の真偽を見定めないことには始まらない。ヤーは覚悟を決めた。


「まぁいい。近くから当たってくというのは理に適ってる。猪竜とやらの正体……確かめに行こうじゃないか」

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