妖精殺し | ナノ


「起立、礼」

「ありがとうございました!!」


日直の号令と共にホームルームが終わるや否や、誰よりも快濶な声で挨拶をした春智は、電光石火の勢いで教室を飛び出した。

此処最近は、いつも呆けていて、誰よりも机から離れるのが遅かった彼女が、矢の如く駆けていく様に、クラスメイト達がポカンとする中。友人らは何事かと、春智の変わり様について、麻結に尋ねた。


「……はるちん、どうしたの?」

「未だかつて見た事のないレベルのはしゃぎ用じゃね?」

「なんか、アルバイト始めたらしくて、本格的な研修が今日からなんだって」

「バイト?」

「うん。よく分かんないけど、知り合いの学者さんの弟子兼助手やることになったらしいよ」

「なんだそりゃ」


登校時から妙にハイテンションであったので、何か良い事でもあったのかと尋ねたところ、春智は先日からアルバイトを始めたこと、今日から本格的な研修が始まることを、それはそれは嬉しそうに語った。
普通のアルバイトで、そんなにテンションが上がることなどあるまい。では、普通のアルバイトではないのかと問うと、知り合いの学者の弟子兼助手になったのだと春智は答えた。

何でも、その学者さんというのは変わった生物の研究者で、春智は彼のもとで勉強しつつ、フィールドワークに出たり、実験の手伝いをしたりすることになったという。

成る程。そういうことなら、欣喜雀躍するのも納得だ。今にも跳び上がりそうな春智当人から話を聞いた麻結も、彼女伝てに話を聞いた友人らも、それなら仕方ないと頷いた。


「でも、はるちんっぽいバイトだよね。ほら、はるちんって生き物好きじゃん」

「あー、確かに。よく本屋行くと図鑑とか見てるよね。変な生き物のガチャガチャも好きだし」


深海魚やら、ガタイの良いカンガルーやら、古代生物やら。春智の、凡そ女子高生が心惹かれるものではないであろうラインナップに引き寄せられる性質を思い返しながら、友人らは苦笑した。

春智自身はそうした面を表に出そうとせず、寧ろ隠そうとしている節があった。
此方から声を掛ければ、変なガチャガチャだと思ったと言ったり、知り合いがこういうの好きでと言ったりして誤魔化していたが、あれは変わり者だと思われ、距離を置かれたくないと、自分を包み隠そうとしていたのだろう。

そんな春智が、ああも活き活きと、楽しそうにしていることを祝しつつ、友人らは麻結に放課後の予定を問いかける。


「ところで麻結、今日のくにちゃんの新たな門出を祝う会行く?」

「えっ、くにちゃんもしかして、彼氏と別れたの?」

「今回は価値観の相違が原因だって」

「芸能人夫婦かよ」


世の中、侭ならぬものだ。愛されるスタンプ考案も虚しく破局したくにちゃんを思いながら、麻結は一応後で春智にも教えておくかと、教室の窓の外に広がる空の青さに眼を細めた。


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