FREAK OUT | ナノ


十怪”残酷”のアクゼリュス侵攻は、結果的に人類側の完全勝利であった。


民間人、並びFREAK OUTの死傷者はゼロ。先の大侵攻で既に廃街と化していた吾丹場が戦場であった為、市街地の被害も無いに等しい。

犠牲を払うことなく得たものは、アクゼリュスと百体以上の眷属討伐。

カイツール討伐に次ぐこの大戦果に、帝京中が”新たな英雄”率いる精鋭部隊の活躍を讃え、湧き立っている。今度こそ、人類が悪徳の樹に打ち勝つ時が来たのだと。


「…………知らない方が幸せって、この事なんでしょうね」


大々的勝利に酔いしれ、賑わう昼のワイドショーを空虚な眼で見遣りながら、捩尾はリモコンに手を伸ばす。

未だ能力負荷の後遺症が残っているだろうにと、邦守は彼の代わりにリモコンを掴み、テレビを消した。


”神腕”白縫朱美の能力で、捩尾の腕は見た目には元通りにまで回復したが、全快には至っていない。腕には痛みと痺れが残り、手の震えも生じている。

捩尾は「この程度で済んだなら儲けしかないっすよ」と言ったが、邦守は己の力無さに忸怩するばかりだ。


(それに比べて……貴方が精鋭部隊に選ばれたのか甚だ疑問ですね。先程から、螺子使いの彼に庇われてばかりではないですか)


インシステントの言っていたことは、正鵠を得ている。捩尾の攻守に優れた能力、逆巻の時を操るという類希なる能力、海棠寺の多対一の白兵戦に特化した能力に比べ、己の能力が劣っていることは嫌と言うほど理解している。

誰かの助け無しにはまともに扱えない、鈍重極まる能力。

一撃必殺と言えば聞こえはいいが、その一撃を繰り出すまで味方の犠牲を強いるのが不動(ニルアドミラリ)だ。


隊長――祗園堂は、己の力を恥じることは無いと言った。仲間達も、犠牲になっている心算は無いと言ってくれた。それでも、誰も傷付けることなく敵を撃ち砕く力が欲しいと思うのだ。自分の力無さの為に傷を負った仲間を見ると、殊に。

そんな邦守を見遣りながら、捩尾は気にすることはないと言ったのになと軽く唇を尖らせながら、リクライニングベッドに深く凭れ、浅く息を吐いた。


「広報部の情報操作も此処まで来ると笑えますね。お陰で、俺達はアクゼリュスを倒した勇者御一行ですよ。実際アクゼリュスを倒したのは唐丸支部長と慈島支部長なのに」

「……支部長が二人も担当地区を放り出したと知れれば事だからな。日和子様に呼ばれた慈島支部長はともかく、唐丸支部長は完全に独断先行だ。何より……上はアクゼリュス討伐というデカい勲章を”新たな英雄”に与えたがっていた。カイツールに次いでアクゼリュスを倒したとなれば必然、国民の期待も高まるからな」


FREAK OUT統轄部は、本件に関わった全ての能力者に箝口令を敷き、此度のアクゼリュス討伐を成し遂げたのはジーニアス第二分隊だと発表した。

それが国の為であり民の為であり、自分達の為である、と。


アクゼリュスを追い詰めた唐丸も眷属討伐に貢献した第三支部の三人も、元より偉勲や褒章には興味が無く、如月市を放棄して吾丹場に向かったことを帳消しにしてもらえるならそれでいいと、手柄を取り上げられることに異議を唱えることは無かった。
担ぎ上げられた此方は、冗談じゃないと猛反発していたというのに。

何を言ったところで上は聞いちゃくれないと捩尾は早々に諦めていたが、邦守達の不服っぷりは凄まじいものであった。
特に、カストディに囚われて殆ど戦闘に参加出来ずに終わった愛は、唐丸達の手柄を自分の物にされることに断固反対――したかったのだろうと思う。


「昨日、愛ちゃんがお見舞いに来てくれたんですよ。けど、まぁ見てられないくらい弱ってて……ホント、ひでーことしますよね上も。あの人達、真峰徹雄がフリークスになってたこと知ってたのに、さ」

next

back









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -