FREAK OUT | ナノ

凡そ五十年前。突如国を襲った未曾有の生物災害に対抗すべく、政府は帝京各地からセフィロトの加護を受けた能力者を招集し、特殊戦闘機関FREAK OUTを設立した。

この時、集められた者達は後に第一世代能力者と呼ばれ、FREAK OUT黎明期を支えた偉大なる先人として讃えられている。

夢路サヱもまた、その第一世代能力者の一人だった。


父と母、兄と弟が一人ずつ。ありふれた五人家族。その中でただ一人、サヱだけが能力に目覚めた。

能力者であることが知られれば、FREAK OUTに徴兵され、フリークスと戦う運命を科せられる。
そんなのは嫌だと泣いて喚くサヱを、家族は売った。能力者の家族には、政府から莫大な慰謝料が支払われると耳にしていたからだ。

貧しさに喘ぐ程、日々の暮らしが辛かった訳ではない。首が回らなくなる程の借金も無かった。それでもサヱは売られ、彼女は十二歳にして人喰いの化け物と戦うことを強いられた。



(サヱ、国の為に立派に戦うのよ)


羽交い絞めにされながら、護送車に放り込まれていく自分に向けた母のその一言は、まるで獣の言葉のようだった。

それでも、家族は私を売ったのではなく、国の為を想って私を送り出したのだと。そう思い込む為に、私は何度も何度も、あの言葉に縋った。


辛くて厳しい訓練の時、死んだ方がマシだと思うようなことがあった時、同期の死に直面した時、、守った市民から石を投げられた時、当たり前の中に生きる人を見た時、人に恋をした時、フリークスに内臓を吹っ飛ばされた時、死にたいと思った時、死ねないと思った時、死んでしまえと思った時、殺してやると思った時、殺してくれと思った時。

何度も何度も思い返しては、噛み締めた。

嗚呼、人間という生き物は、なんて”残酷”なのだろう――と。

蛆に体を啄まれながら息絶えるその時でさえも、私の中にあったのは、”残酷”だけだった。




彼女の能力イメージは、傷んだ胸の底から生まれる。

酷く爛れ、腐り果て、膿み続ける心から、とびきり”残酷”な幻を描いてぶつける。一度目の死を経て、夢不知(インソムニア)を一層凶悪なものへと昇華したのは、彼女が人から受けた痛みだ。

憤怒が、悲哀が、憎悪が、苦痛が、失望が。ありとあらゆる悪感情が、彼女を強くした。
自分が受けた痛みをこの世界に返すには、足りない。もっともっと”残酷”でなければ、私は報われない。

より邪悪に、非情に、冷酷に、惨憺に。この世の何より惨たらしく、悍ましく在れ。それで全てが雪がれる――それなのに。


「炎狂い(ピロラグニア)」


能力の相性が悪かった。どれだけ鱗粉を放出しても、燃え盛る炎に阻まれ、爆風に吹き飛ばされ、唐丸に届かない。

”放火狂”という二つ名に反し、唐丸はただ闇雲に燃やすだけの男では無い。アクゼリュスが鱗粉を放つモーションをつぶさに見据え、夢不知の発動そのものを妨げたり、己の周囲にサークル状の炎壁を作ったり、能力の使い方が実に適切且つ理性的だ。

長年磨き続けてきた自分の能力が、未だポケットに片手を突っ込んだまま、こんなものかと言いたげな顔で片付けられる。
翅が引き千切られた日に匹敵する屈辱だとアクゼリュスが切歯する中、唐丸は短くなった煙草を指で弾き、退屈そうに欠伸した。


「鱗粉キメた相手の脳ミソをブッ壊す能力……夢不知。おっかねぇ能力だが、防いじまえばどうってことはねぇな」


言いながら、唐丸はアクゼリュス目掛けて巨大な火球を放った。

夢不知が此方に通用しない以上、アクゼリュスの脅威は半減したも同然。わざわざ吾丹場まで来たというのに、歯ごたえのない戦いになってしまったと唐丸は二本目の煙草を咥えようとして、即座にその場を飛び退いた。


極小の太陽めいた火球が、真っ二つに裂けた。其処から間髪入れず、直線上の地面が抉れた。


――あのまま立ち尽くしていたら、唐竹割りになっていた。唐丸だけに。


我乍ら死ぬほど笑えない話を夢想する程度の余裕はある。だが、それも此処までだろうと唐丸は炎をカーテンのように引き裂いて現れたアクゼリュスを見つめる。


「ふふ……ふ。ははははははははははは!!」


鞭のように撓う翅が、徒に辺りを穿つ。あれで火球を上から叩き付け、地面を抉り飛ばしたのだろう。

鋼の硬度を持つ飾り翅は、宛ら縦横無尽に蠢く有刺鉄線。一回り巨大化した体を覆うは、黒い甲殻の鎧。
能力のエネルギーリソースを体に回し、肉弾戦に特化した姿への変態。夢不知の凶悪さから、殆ど接近戦を必要としなかった。故に、未だ観測されたことのないアクゼリュスの形態変化。

この姿は無骨が過ぎる為、あまり好きではない。だが、眼の前の相手を蹂躙出来るのであればそんなことはどうでもいいと、アクゼリュスは口角を歪める。


「防げばどうってことない?そうねぇ!でも、これは防げるかしら!?」


アクゼリュスが踏み込んだ瞬間、唐丸は炎の壁を作った。


――そんなもので防げると思っているのか。


嘲るように壁を突き破ったアクゼリュスであったが、其処に唐丸の姿は無かった。

目的は、ガードではなく目眩し。炎で自分の姿を隠しての回避が狙い。顔には多少焦りが見えるが、未だ冷静に状況判断出来るだけの余裕はあるらしい。身を捻り、横から飛んできた火球を翅で叩き斬りながら、アクゼリュスは鼻を鳴らした。


「遊びは終わりよ。あんたの脳ミソ直接グチャグチャに掻き回して、理性も人間性も、ぶっ壊してあげるわ!!」


体を覆う甲殻は、耐熱効果を有しているらしい。ただでさえ、多少体が焼ける程度のことを厭わない相手だというのに、これは厄介だ。火力を上げ、炎の勢いで相手を押し流しながら距離を取らなければ、フィジカル面で劣る此方に勝ち目は無い。

これが十怪。なんと焼き甲斐のある相手かと、唐丸は昂揚に身を震わせ歓喜した。


「やべぇ。流石にこれは死ぬかもな」

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