FREAK OUT | ナノ


人は、自分達を災厄と呼ぶ。

意思を持った惨害、悪意を以て降り立つ禍殃、命ある天災と、人間は自分達を畏怖する。


だが、彼を目の当たりにしたのなら、人類は思うだろう。所詮十怪とは、その程度の存在なのだと。


(……ウソでしょ。あれが、私達と同じだっていうの……?)


初めて彼を眼にした時、悟った。あれは、化け物の中に生まれた化け物だ。

母なる大樹が≪種≫を撒き続けたのは、きっと、あれを生み出す為なのだろう。
ただ其処にあるだけで、全てを破壊する絶望の化身。それがあの化け物だ。


(母なる大樹は新たな十怪の誕生を心からお喜びだ……しかし、あれはフリークスさえ滅ぼしかねない危険因子。我等十怪で管理しておかねば、人類もフリークスも彼に滅ぼされるでしょう)

(先代バチカルはまだ可愛いもんだったな。いやー、参った参った。流石の俺も、あれはどうしようもねぇわ)


恐ろしい。ただただ恐ろしい。あれの前では、何もかもが赤ん坊同然。全てが等しく、風の前の塵に同じ。あれが一度牙を剥いたなら、この世界の悉くが喰い尽くされることだろう。

だから、あれを止める為の切り札が必要だというのにと、アクゼリュスは眷属の頭を蹴り飛ばした。


「クソ!!どいつもこいつも使えないわね!!」


彼女の癇癪で、既に五体の眷属が無惨な死を遂げている。

その殆どは実質八つ当たりで命を落としているのだが、無理もない。彼女の命を受けた眷属の大半はFREAK OUTの妨害を受け、まともに動けずにいる始末。討伐されるものも続出し、徒に時間が流れる中、アクゼリュスの焦りと苛立ちは最高潮に達していた。


「このままじゃ、バチカルが奴等と鉢合わせる……。明日までに手札が揃わなかったら、計画を変えるしかない……ああ、もう!それもこれも!お前らが使えないせいで!」


眷属の頭部を何度も何度も執拗に踏み付けながら、如何にしてこの窮地を脱するべきかと思惟する。

バチカルは、とうに此方に上陸している。あれの居所も掴んでいる頃だろう。キムラヌートの眷属達による足止めも限界だ。いい加減、此方で確保して侵略区域に持ち帰らなければ、全てが終わる。

こんな時に他の十怪は何をしているのかと、アクゼリュスは牙が砕けんばかりに切歯した。その時だった。


「らしくないわね。”残酷”のアクゼリュスが、そんなに狼狽えて」


聞き馴染みのあるその声に振り向くと、赤い複眼が女の姿を捉えた。

長い前髪で顔の半分を覆った、見るからに陰鬱な若い女。無論、それは人の形をした化け物であった。


「ツァーカブ……!あんた、何でこんな所に」

「キムラヌートから頼まれたのよ。アクゼリュスを手伝ってやってくれって」


十怪に存在する二体の女型フリークス。その片割れ、”色欲”のツァーカブ。それが彼女の正体だ。

事が上手く運ばずヒステリックになっている此方を嘲る陰気臭いその眼差しに、アクゼリュスは一層強く歯を食い縛る。


「誰があんたなんかと……!」

「私も全く同意見よ。でも、バチカルが動き出したって言うなら話は別……そうでしょう?」


聞き分けのない子供を見るような顔も、辟易とした声も、何もかもが気に入らなかった。
十怪になって数年程度の小娘に、同等――否、それ以上の顔をされて、どうして黙っていられようかとアクゼリュスは牙を剥くが、ツァーカブの態度は揺るがない。


「と言っても、貴方は私と共闘なんて御免でしょうし、私も別件でこっちにいるの。だから、眷属の貸し出しでお互い譲歩しましょう」

「別件……?」

「ラジネスよ。この間、カイツールが倒されたから、次の”醜悪”はあれにしようってことになったでしょう。だから、餌場探しとか色々下準備してるのよ」


直に、ラジネスが浮上する周期だ。抜け落ちた”醜悪”の座に彼を据える為、避難区域内で暗躍していたツァーカブであったが、まさか此方の尻拭いまでしなければならなくなったとはと、彼女はわざとらしく肩を竦めてみせた。

間髪入れず、その背後から全身真っ白な皮に覆われたようなフリークスが現れた。彼女の眷属である。


「ラヴィッシュを貸すわ。あいつの能力があれば、確実に一撃くれてやれるでしょうから……精々上手くやって頂戴」


吐き捨てるようにそう呟くと、ツァーカブは闇に紛れるようにして姿を消した。

後に残された彼女の眷属を横目で見遣りながら、アクゼリュスは細切れの肉片を更に踏み拉く。


「…………陰湿な女」


あの女も、こんな風に死んでしまえばいいと祈りを込めながら。


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