FREAK OUT | ナノ
涙を流すことを止めた子供がいた。
声を上げて泣き喚いても疎まれるだけで、その言葉は誰の胸に突き刺さることもなくて。そんな現実を痛感するくらいなら、何もかも諦めて、一人でいた方がずっと楽になれると、その子供は、誰かに寄り添ってもらいたいという願いを放棄した。
(早く、引き取ってくれ。あれはもう、俺達の手に負えるものじゃない)
(なんて力だ……。本当に同じ人間なのか?)
(能力の制御が出来るようになるまで、RAISEに入れるべきではないだろう。他の訓練生のみならず、教官達まで巻き込みかねん)
助けを乞えば、それだけ虚しくなる。救いを求めれば、それだけ悲しくなる。だから、自分はもう何も望まずにいるべきだと、痛んだ心を凍らせて、子供は膝を抱えた。誰も踏み込むことのない、絶対零度の世界で独り。心が死に絶えるのを待ち続けながら――。
(おぉっ、寒いなぁ。うっへぇ、風邪引いちまいそうだ)
だが、その孤独は容易く踏み破られた。
何の躊躇も無く、見知った道を歩くような足取りで。彼は、誰もが恐れた”氷天下”の世界に足を踏み入れた。
(き、危険です、真峰さん!!戻ってください!!)
(へーきへーき。後でちゃんと温かくして寝るからよ)
(そういうことではなくて!!)
(よう。お邪魔するぜ、少年)
凍てつく冷気も、犇く氷柱も物ともせず、彼は当たり前のように歩み寄ってくれた。
自らの力を抑え切れず、故に見放され、隔絶され、それを受け入れようとしていた、名前も知らない子供の為に。彼は、自らの命が危険に曝されることも顧みず、隣に座って、ただただ声を掛けてくれた。
(大丈夫。お前はもう、一人じゃない)
(傷付けてしまうかもなんて思わなくていい。怖がられてしまうかもなんて考えなくていい。誰かの為に、自分の為に、一人ぼっちで凍える必要なんてない)
(お前が自分の力をコントロール出来るようになるまで、俺がいる。俺が師匠として、お前の修行に付き合ってやる)
(だから、もうこんな所で泣くなよ、少年。お前には”英雄”がついてるんだからな)
涙も出さず、声も無く、血を流すように泣いていた。
大声を上げることも、止め処なく溢れて止まない涙を零すことも、誰かに縋り付いて、辛かった苦しかった寂しかったと言うことも出来ず。全てを分厚い氷の中に閉じ込めて、胸を裂くような痛みも、誰にも打ち明けられない悲しみも、無かったことにしようとしていた。
彼に手を差し伸べられる、その時までは。
(俺は”英雄”・真峰徹雄。……それで、少年。君の名前は?)
それが、始まりだった。
夢も希望も憧憬も、悲劇も惨禍も絶望も。全てはあの時、彼と出会ったことから始まった。
(尋…………雪待尋、です)