FREAK OUT | ナノ



それが”英雄”というものであることを、栄枝は一目で理解した。


<――英雄、見参(ヒーロータイム)!!>


それは、RAISEの授業で流された伝説。歴史に残る偉業。史上初の、十怪単騎討伐。それを成し遂げた若き日の真峰徹雄の記録映像だった。


破壊された市街地。煙る空。その中心で、街を襲った絶望の使徒――十怪・無感動のアディシェスが倒れた時の人々の歓喜の咆哮。その熱狂にも等しい感動の波に、ビデオを見ているだけの訓練生は皆、胸を震わせた。


眷属達の妨害により、援軍は足止め。その場にあるものは己の体ただ一つ。
それでも彼は、たった一人で十怪に立ち向かい、戦った。

血反吐を吐きながら、砂に塗れながら、多くの傷を負いながら。一撃一撃、渾身の力を込めて――激闘の果て、彼は勝利を手にした。


とても、鮮やかなものではなかった。訪れた静寂の中、佇む彼の姿はボロ雑巾も同然の有り様であった。
だが、分厚い雲を割る程の一撃を放った拳を頭上に掲げ、空を掴むが如く握り締め、彼が血まみれの顔を上げて笑った瞬間。人々は腹の底から歓声を上げ、彼を讃えた。

彼こそが希望。彼こそが光。彼こそが、”英雄”――真峰徹雄だと。


その喝采を聴きながら、栄枝は強烈に憧れた。

誰よりも強く、誰よりも勇猛で、誰よりも輝く彼のような存在になりたい。大きな絶望を撃ち砕き、人々の望みとなりたい、と。


その願いは今も、褪せることなく彼女の胸の中に在る。彼が侵略区域で消息を絶ち、五年の月日がたった今も尚。”英雄”は栄枝の夢であり、理想であり、目標である。

しかし――。


「ぐぎゃああああああああああああああ!!!」

「……立て、カイツール」


”英雄”というのは、化け物を凌駕するものである。凄まじく、悍ましく、物恐ろしいと畏敬される程の激しさと力強さを以てして敵を討つ。

それが”英雄”というものであることを。”英雄”とは、血溜まりの中で生まれるものだということを、栄枝は今になって理解した。


「こんなものじゃ足りない。お前が死ぬには届かない。それに、何より――」


黒い光の翼を広げ、力を圧縮した羽根の弾丸を放ち、無限に躯を抉られるにも等しい壮絶な痛みに狂い悶えるカイツールを、冷え切った眼で見据え、飛び散った肉片を踏み砕く。

その無慈悲さは、その冷酷さは、彼女が人であるが故に抱いた感情の成れの果て。
嬲られ続ける化け物の所業を、誰よりも怒り、嘆き、恨み、悲しんだ。そんな人間らしさが皮肉にも、彼女を人から遠ざけた。


そう。”英雄”とは、人でありながら人の範疇を越えた者が辿り着く領域。化け物にとっての化け物なのだと思い知らされた栄枝は、目の前で繰り広げられる虐殺を、ただ見ていることしか出来ずにいた。


「この程度の痛みで、お前が弄んできた人達に……仁奈ちゃんに報いれると思うな」


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