FREAK OUT | ナノ
昔は、仲のいい兄妹だった。
(こんにちは、誠人くん)
(慈島さん、こんにちは)
(愛ちゃんは?)
(ぼくも探してるとこ。今、かくれんぼしてるんだ)
(そう)
誠人くんは、七歳年下の妹の面倒をよく見ていて、愛ちゃんが泣けば駆け付け、まるで騎士のようだった。
愛ちゃんは、そんな頼り甲斐のある兄をとても慕い、何をするにも誠人くんと一緒がいいと可愛らしい駄々をこねて、周りを困らせたりしていた。
たまに訪ねる時、二人はいつも遊んでいて。誠人くんも愛ちゃんも、それはそれは楽しそうで、幸せそうで。
俺は、兄妹の理想像とは、この二人のことを言うのだろうと思っていた。
(これ、お土産に買ってきたんだけど……冷蔵庫入れておいた方がいいかな)
(あー!ケーキだー!!)
(あっ、愛!そんなとこに隠れてたのか)
(ねぇ、いつくしまさん!ケーキ、いちごのある?)
(あるよ。愛ちゃん、苺のケーキが一番好きって言ってたから、ちゃんと買ってきたよ)
(お兄ちゃんのは?)
(誠人くんは、チーズケーキだよね)
(せいかーい!ねぇ、お兄ちゃんケーキ食べよう、ケーキ!めー、おなかすいた!)
(……かくれんぼはいいの?)
(あ!!)
(……アハハハ!!)
二人のいるところにはいつも笑顔で溢れていて。誰もが、この兄妹の未来は明るく、素晴らしいものであるに違いないと思ったことだろう。
手と手を取り合い、喜びも苦悩も分かち合い、いつしか離れる時が来ても、その心は血と共に繋がり続けていると。
そんな未来が、二人の手には確かにあった筈だったのに――。
(誠人!!何してるの?!誠人!!!)
約束されていた彼と彼女の未来は、粉々に砕け、壊れてしまった。
それは宛ら、孵化を待つ卵が割れてしまったように。
この世でただ一人の兄と妹の幸福な日々は、二度と戻らず、二度と望めぬものへと成り果ててしまった。
(……お前が悪いんだ、愛)
(誠人!!!)
彼等の未来は、あの日を境に死に絶えた――否。
仲睦まじい兄と妹は、俺が、殺したのだ。