FREAK OUT | ナノ


まさに彼は、成るべくして”英雄”になった男、とでも言うべきなのであろう。


今から四十年前。クリフォトとセフィロトの出現からちょうど十年の月日が経った頃。フリークスの群れによる市街侵攻が起きた。

当時、能力者の数は今よりも少なく、FREAK OUTも創設したばかりで統率や経験、何より戦力に欠けていた。
故に、各地でフリークスによる大規模な捕食活動が頻繁に発生し、民間に多くの犠牲者を出し、幾つもの市街が破壊されてきた。

彼が覚醒したのは、そんな時代――ある市街で起きたフリークスの大侵攻の際であった。


「……これは、君がやったのか」


瓦礫の山、散らばる化け物の骸と、頭から血を浴びた放心状態の人々を背に、一人佇む少年の姿。
それらを見て、男は尋ねるまでもなく、ほぼ確信していた。

齢七つ程度の、小さな少年。噎せ返るような血の匂いを纏い、砂埃を含んだ風に吹かれている彼が、辺りに飛散しているフリークス――それも、複数体を討伐したのだと。


「…………みんなが、危なかった」


集団下校の最中だったのだろう。

フリークス来襲の勧告を受け、引率の教師や同班の生徒、逃げ惑う人々と共に、緊急避難シェルターへ向っていた、その道中。
彼は、背後から迫り来るフリークスの脅威に曝された。

そして、響く咆哮と悲鳴に振り向いた刹那。彼は、目にした。
人があっさりと轢き砕かれ、肉片と化していく様を。血の道を敷き、建物を徒に破壊しながら接近してくる、化け物の姿を。

それに青褪め、振り向き直した時。
恐怖し、泣き叫び、か弱い動物の群れと化した人々が、縺れた足のせいで躓いたり、隣人に突き飛ばされて地面に倒れ込んだりするのを見た彼は、思わず立ち止まった。


「ともだちも、先生も、近所のおばさんも、知らない人も……みんな、危なかった……みんな…………食べられるとこだった」


どうして、こんなことになっているのか。
どうして、自分達がこんな目に遭わなければならないのか。

考えている時間はとても短かった。だが、その間にもフリークスは、恐怖に足を取られた人々に牙を剥いていて。
最早、餌となるまで数秒と掛からないだろう、その一瞬。立ち止まった少年は、駆け出した。

目の前で、誰かを喰わらんとしていた、化け物に向かって。


「おれが助けなかったら、みんな……死んでたんだぞ」


自分が助けるしかなかった。だから、助けに行ったと、七歳の少年は言った。
大人でさえ悲鳴を上げて逃げ惑うフリークスを相手に、その時まで何の力も持たなかった少年が。自分が駆け出さなければならなかったと、赤の他人の為に踏み出した。

その強靭な志は、彼が素質を有していたからなのか。はたまた、彼の想いがこの凄まじい力を呼び寄せたのか。

どちらにせよ、これは必然。運命であったのだろうと、男は咎めるような眼をして此方を見る少年に、眼を細めた。


「そうか。君は、その為に戦ったんだな」


それから数年後。避難区域に侵入したフリークスの軍勢が、FREAK OUTによって迎撃されたのを機に、市街侵攻は激減した。

その戦いの最前線に立ち、数十体にも及ぶフリークスを討伐した少年は、後に単騎で十怪が一角、アディシェスさえも打ち倒し、こう呼ばれた。


”英雄”、真峰徹雄――と。


「こうも多くの逸話を残してきた男だ。我々が、君に期待するのも頷けることだろう」


next

back









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -