FREAK OUT | ナノ


五年前”英雄”真峰徹雄は侵略区域で死んでいた。其処で彼はフリークハザードを起こし、その身はフリークスへと変じた。

その光景を目の当たりにしていた唯一の生還者、雪待はそれを統括部に告げた。


だが、統括部は彼の死とフリークハザードを隠蔽し、真峰徹雄は侵略区域で姿を消したと、そう公表した。

”英雄”が人類の敵に変じたことを知れば、国民の恐怖心と不安が暴走し、帝京は恐慌状態に陥る。国の秩序と平穏の為にも、”英雄”が魔に堕ちたことは隠さなければならないと、統括部は真峰徹雄の死を揉み消し、雪待にもこれを秘匿するよう命じた。

徹雄の死に最も絶望するのは誰か。それを考えるべきだ、と。


そんな言葉に従ったのは、自分の罪を知られることを恐れていたからだと彼は言った。まるで、絞首台に足を掛けるような面持ちで。


「……愛ちゃん、戻って来られると思いますか」

「……戻って来ない方がいいと思っている。この先に待ち受けているものは……彼女にとって苛酷過ぎる」


吾丹場から帰還した後、愛は祗園堂から休養を言い渡された。捩尾が回復するまでの待機休暇、という名目で。
その実体が、父親の死と変容を目の当たりにして受けた精神的負荷と向き合う為に設けられたものであることを、当の愛も察している。

それでも何も言わずに暇を貰っていったのは、彼女自身、限界を感じていたからに他ならない。

虚ろな眼で力無く頷き、弱々しい足取りで自室に戻っていく愛を見て、捩尾も邦守も、彼女はこのまま此処に戻ってくるべきではないと、そう思った。


これまで彼女は、父のような”英雄”になることを志に、数多の艱難辛苦にも屈することなく戦い続けてきた。何時か、海の向こうの何処かに居る筈の父との再会を夢見て。その為に必要な強さを求めて、血反吐を吐きながら前へ前へと進んできた。

信じていたのだ。父があの地で生きていることを。五年の時を経て、父と再び会えるその時を。


しかし、それは叶わぬ願いであると突き付けられた。

これまで必死になって手に入れた力と強さで、彼女は、フリークスとなった父を殺さなければならない。”新たな英雄”で在る限り、彼女は堕ちた”英雄”を、父を、斃さなければならない。

その使命を受け入れることが出来るのか。祗園堂は愛が自ら答えを出すのを待っている。


「俺ね、ぶっちゃけ愛ちゃんがうちに来るの、冗談じゃねぇやって思ってたんですよ。上はどうしたって”新たな英雄”を担ぎ上げる。その為に、俺らは利用されることになる。そんなのまっぴら御免だって、そう思ってたんですけどね……」


邦守の言う通り、この先彼女が歩むのは、凄絶なる荊棘の道だ。

堪え難い痛みと苦しみの果てに救済は無く、残されるものは無数の傷痕と、空虚な冠だけ。世界を救ったとして、彼女が救われることは決して無い。それでも人は、彼女を”英雄”たらしめようとするだろう。

だからこそ、捩尾は想う。彼女は全てを投げ捨ててでも、此処から背を向けて逃げ出すべきだと。


「でも今は……そういうの無しに、あの子に戻って来ないでほしいって、そう思います。……あの子、もう、どう転んだって報われないだろうから」

「…………」


ふと目を向けた空は、恐ろしく澄み渡っていた。

この青い空が続く限り、何処にも逃げ場なんて無い。そう物語るような、酷く惨たらしい晴天だった。

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